■辛さは「痛み」
疲れているとき、インドカレーや韓国料理などの激辛料理を食べたくなりませんか? かくいう私もその一人です。猛烈に辛い料理を食べていると、恍惚とした気分になることすらあります。これは、エンドルフィンによる効果と考えられます。
唐辛子にはカプサイシンという成分が含まれています。カプサイシンは辛さ成分そのもので、これが多く含まれている唐辛子ほど辛くなります。このカプサイシンもまた、エンドルフィンを分泌させるのです。
「辛さ」は、痛覚の受容体で認識されるので、痛みを感じます。辛さが強いと、その「辛さ」=「痛み」を緩和するために、鎮痛物質のエンドルフィンが分泌されるのです。
■チョコレートでストレス解消
疲れがたまるとスイーツ、特にチョコレートが食べたくなる、という人も多いはずです。その理由のひとつは「疲れている」=「エネルギー不足」。つまり、体がすぐにエネルギーとして利用可能な糖質を欲するということです。
じつはチョコレートには、もうひとつ特別な効果があります。チョコレートの原料であるカカオにも、エンドルフィンを分泌する効果があるのです。本当に美味しいチョコレートを食べると、恍惚とした気分になりませんか? それもまたエンドルフィンがもたらす効果といえるでしょう。
■脂・辛・甘を体が求めるとき
ここまで読んできて、「ただの脳科学に関する雑学で、実生活には役立たない」と感じた人もいるかもしれませんが、実際はそうではありません。
「食欲」には、あなたのストレス度や疲労度が表われます。唐揚げ、ラーメンをはじめ、激辛料理、チョコレートなど、エンドルフィンを分泌させる食品を無性に食べたくなったとき、つまり「脂っぽいもの、辛いもの、甘いものを食べたい!」というときは、あなたの脳や体は疲れているということなのです。
こういうときは、「最近、ストレスがたまっていないか?」と自問自答してみる。仕事が立て込んでいるとしたなら、睡眠や休息をきちんと取るようにするなど、自分のストレスを点検するチャンスなのです。
■唐揚げ効果は一過性?
食事によるエンドルフィン分泌は、あくまでも一過性の効果。つまり、頭痛や胃痛のときにのむ鎮痛剤と同じで、対症療法でしかなく、ストレスを根本的に減らすことはできません。エンドルフィン系食品によるストレス発散は、たまにはいいですが、ほどほどにしておいたほうがいいでしょう。
ストレスを自分で意識できたなら、その原因に対して適切に対処していくことのほうが大事です。コロナ禍のような、自分ではコントロールできないストレス状況におかれている場合は、睡眠、運動、朝散歩などをとおして、脳と体の状態を整える。こうした、根本的なストレス対策が必要です。
■「ありがとう」効果は絶大
「睡眠、運動、朝散歩が大事なことはよくわかっているけど、忙しくてなかなか時間を割けない」という人も多いでしょう。そこで、簡単にできて、かつ絶大な効果をもたらすエンドルフィン分泌法をご紹介しましょう。それは、「感謝」です。「ありがとう」と言うと、それを「言った人」と「言われた人」の両方に、エンドルフィンが分泌されます。つまり、「ありがとう」と言うだけで、自分自身が癒やされ、さらに言われた相手も癒やされるのです。
実際、同僚の仕事を手伝ってあげたあとなどに「ありがとう」と言われると、それだけで労が報われ、癒やされた気分になるはずです。
誰もがイライラしがちな今の時期だからこそ、より意識して、「ありがとう」と感謝の気持ちを伝えたいものです。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動
イラスト・浜本ひろし
(週刊FLASH 2021年6月22日号)