■「取り繕い」で症状が悪化
樺:うつ病、自殺、その他のメンタル疾患すべてに当てはまりますが、メンタル的に調子が悪い人ほど「取り繕い」という心理が働きます。
自分が精神的に病んでいることを他人には知られたくない。本当は「元気がない」「もう限界状況」であっても、人前ではそれを隠すために「陽気に」「明るく」振る舞うのです。「取り繕い」によって、精神的エネルギーを猛烈に消耗し、脳疲労がさらに進んで、症状を悪化させます。
編:大坂さんの場合、「うつ」のカミングアウトには、かなりの勇気を必要としたのでは?
樺:そうだと思います。今までそうした「本心」を口にできなかったことは、ものすごいストレスだったでしょう。一般的に、カミングアウトをすることで肩の荷が下り、精神的に楽になることはよくあります。
■大坂さんの問題は、みんなの問題
樺:また、多くのマスコミや有名なテニスプレーヤーたちが、彼女のカミングアウトに共感的なコメントを寄せていたのにはホッとしました。メンタル疾患に対しては、まだまだ差別や偏見が強く、さらに彼女に対するバッシングが強まった可能性もありましたから。
編:実際「うつと言えば、なんでも許されるのか?」といった、辛辣なコメントも見られました。
樺:こうした反応はとても残念ですね。メンタル疾患に対する理解不足から、こうした差別や偏見が起きるのです。
日本人のメンタル疾患の生涯罹患率は18.6%です。つまり、一生の間で精神科にお世話になる人は、5~6人に1人もいるのです。
メンタルの状態が悪化し、感情のコントロールがきかなくなって、会社や友人の悪口を、ついSNSに書いてしまうということは、誰にでも起き得ることです。それがバレて、謝ってもすまされないレベルにまで問題が大きくなったとしたら……。メンタル疾患に対する社会的不寛容が、患者を苦しめます。最悪「自殺」にまで追い詰められるかもしれません。
編:大坂さんは、東京五輪への出場の意思を示していますが、1~2カ月で「うつ」は改善するものなのでしょうか?
樺:今の彼女の「うつ」がどの程度のものなのかはわかりませんが、1カ月でもゆっくり休養できれば、改善する可能性は十分にあります。SNSなどでの発言やマスコミが彼女を攻撃しないという前提つきではありますが。
とにかく、今は彼女をそっとしておいてほしい。その結果、東京五輪のテニスコートで、再び活躍する姿を見ることができれば、これほど喜ばしいことはありません。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動
イラスト・浜本ひろし
(週刊FLASH 2021年6月29日・7月6日号)