■その2 料理の味つけがおかしい
先日、札幌の実家に帰省して、母親(81歳)の作ったいなり寿司、巻き寿司を食べました。昔食べた「おふくろの味」と同じ味つけで、ホッとしました。認知症でないことを確認できたからです。
認知症の場合、「味覚」の異常が、かなり早期に現われることがあります。醤油や塩を入れすぎて「しょっぱすぎる料理を作る」というのは、危険な徴候です。
また、料理というのは、いくつかの工程を同時進行するなど、作業がとても複雑です。「手際よく作れなくなってきた」というのも、認知症の恐れがあります。また認知症になると、上手に作れないので、「料理をしなくなる」ことも多くなります。
あるいは、「鍋を焦がす」ということもありがちです。それは、注意低下が進んでいる証拠です。
■その3 同じものをたくさん買う
実家に帰省したときに、同じものをたくさん見つけることがあります。これは、危険な徴候です。親が買ったことを端から忘れて、新しいものをどんどん買っているのです。
台所に未開封の醤油が5本もあるようなときは、親の認知症を疑ったほうがいいかもしれません。
■その4 道に迷う
外出先で帰路がわからなくなり、自宅に戻れなくなった。これは、健常高齢者では、まずあり得ないことです。
「視空間失認」といって、場所の認識力が低下するのは、認知症の主要な特徴です。親が自分の家に帰ってこられなくなることが一度でもあったなら、精神科で診てもらうべきです。
認知症の発症の過程を、患者本人の目線で描いた映画『ファーザー』。患者の役をきわめてリアルに演じた主演のアンソニー・ホプキンスは、アカデミー賞主演男優賞を受賞しました。
本作の中で特徴的なのは、アンソニー演じる老父が「自分がどこにいるのか」わからなくなる描写です。「自宅」なのか、「娘の家」なのか、「病院」なのか。どこにいるかわからないから、混乱し、不安になる。時に、パニックに陥ります。
入院したときに自分の病室に戻れなくなる、というのも「視空間失認」が疑われます。
■その5 とりつくろう
前記のような「認知症が疑われる行動」が認められたとき、「最近、物忘れがひどくない?」とか「よく鍋を焦がすよね」と、本人に指摘してみます。
すると「そんなことない!」と強く否定する。「たまたま、焦がしただけ」と、とりつくろう。いろいろと言い訳をする、無理に話題をそらす、怒り出す……などの徴候が見られると、やはり認知症の危険が迫っています。
これを心理学では、「否認」といいます。本人は、「衰え」を自覚しているからこそ、それがバレないように、強く否定するのです。あるいは、正常であるかのように装います。
「最近、物忘れがひどくてね」と、自分から認める場合は、正常であることが多い。しかし、認知症を発病しつつある人の場合、「大丈夫、大丈夫」と何事もないことを強調します。そうするほど否認が強いわけで、認知症である確率は高いと予想されます。
――あなたのご両親に、以上の5つの徴候がいくつか見られた場合、「物忘れ外来」がある精神科で診てもらってください。MCIなのか、認知症なのかは、専門医が診察しないと、素人にはわかりません。繰り返しますが、「MCI」から「認知症」に進行してしまうと、元に戻らなくなるのです!
そして、「おかしいな」と思ったときに、「様子を見る」という判断をしてはいけません。結果として、それがあなたの「介護地獄」への入口になるのです。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動
イラスト・浜本ひろし
(週刊FLASH 2021年7月27日・8月3日号)