自身の病巣を冷静に診る医師としての顔、ショックで怯える “患者” としての顔ー。がんになった医師たちが、その体験を赤裸々に語った。病院や治療法をどう選んだのか、苦しみをどう乗り越えたのか。そして、どんな “がん名医” が彼らを治療したのか!?
54歳で胃ジスト(ステージ4、ジストはステージ類をしないが、肝臓に転移があるため)になったJA愛知厚生連 海南病院・緩和ケア内科の大橋洋平医師(58)。
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「転移がわかり、思わず主治医に『余命は?』と聞いてしまいました。すると主治医は『大橋さんのがんは、データが十分ではなく、余命は正直わかりません』と、妙な気遣いもなく言ってくれました。それがありがたかったんです」
2018年、大橋洋平医師は突然の下血に見舞われた。
「痛みがまるでなく、『胃がんだろう』と直感しました。しかし、私の誤診でしたね」
実際は、発症率が年間10万人あたり1〜2人という「ジスト」だった。胃や腸の粘膜下の筋肉層にできるがんだ。
「ショックでしたが、抗がん剤治療ができるのが支えでした。副作用や胃切除も影響し、40kg近く体重が減りましたが、治療のために耐えました。しかし、その9カ月後、肝臓への転移がわかったのです」
大橋医師が冒頭のように尋ねた相手が、勤務先である海南病院の宇都宮節夫医師だ。
「肝臓転移の際に、主治医には手術もすすめられましたが断わりました。今は、 “足し算命” でしぶとく生きています。余命が1日ずつ減っていくのを数えるのは、ちっとも嬉しくないですよね。じゃあ、私は『今日まで生きた日』を数えようと決めました。そしたら、不思議と気持ちが楽になったんです」
「治療の副作用、後遺症、今後の行く末……がんは苦しいです。それでも、患者さんとの対話は続けていきます」
【私を救ったがん名医】
海南病院腫瘍内科 宇都宮節夫医師
取材/文・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)