いま、仮想通貨(暗号資産)の世界で、なぞの日本語ブームが起きている。
この業界はもともと日本との不思議な縁があった。世界で最も馴染まれている「ビットコイン」は、サトシ・ナカモトという日本名の人物が生みの親だと言われている。しかし、そのナカモト氏が実在するかどうかはわかっていない。
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また、パロディから始まり市場規模がトップ10内に大躍進した「ドージコイン」は、インターネットで流行った日本の柴犬 “かぼす” がトレードマークである。
そして、この柴犬にあやかろうと、現在、さまざまな犬の名前が仮想通貨に使われている。なかでも大規模なものが「柴犬(Shiba Inu)コイン」で、こちらはドージコインと同じ犬種がトレードマーク。時価総額はむしろ高く、ドージコインを打ち負かすのではないかと目されている。
「柴犬コイン」は2020年にRyoshi(リョウシ)という謎の人物かグループにより作られ、プロジェクトマネージャーの名前は “Shytoshi Kusama(シトシ クサマ)” である。独自の報酬システムや柴犬保護に寄付するなどの活動が人気を博し、300億ドルほどの通貨が流通している。
最近では「埼玉犬(Saitama Inu)」という仮想通貨がSNSでトレンド入りした。これは今年5月にローンチしたばかりで、若者に人気の通貨。友人間の支払いに「埼玉犬」でやりとりする人たちもいるという。
名前は埼玉県の山犬信仰で知られる三峰神社に由来し、トレードマークは山犬の毛皮をかぶったスタジオジブリのキャラクターのようだ(もののけ姫のサンのようないでたち)。
通貨のウォレット(財布)はサイタマスク、支払いはサイタ・ペイメント、その他の活動にもサイタマーケット、サイタメーカー、サイタ・エデュケーションなどという言葉が使われ、価格が落ちれば “サイタマ下落”、上がれば “サイタマ上昇” とニュースのヘッドラインで叫ばれる。
そんな日本要素がたっぷりと詰め込まれた通貨であるが、ウェブサイトに公開されているホワイトペーパーと呼ばれる白書は、英語、スペイン語、ポルトガル後、アラビア語、トルコ語のみで、日本語は含まれていない。
現在の市場規模はまだまだ発展途上だが、20万以上のウォレットが登録されているそうだ。
そのほかにも、絶滅危惧種の三州犬(Sanshu Inu)、紀州犬(Kishu Inu)、北海道犬(Hokkaido Inu)、秋田犬(Akita Inu)、甲斐犬(Kaiken Inu)、四国犬(Shikoku Inu)など、仮想通貨には次々と日本犬シリーズが登場している。
これらのホワイトペーパーには、日本語が用意されていても自動翻訳のみで日本人が監修したとは思えない言葉遣いのものも見られた。
日々進化している仮想通貨は、現在、全世界に7000種類以上、データによっては1万3000種類以上存在すると言われている。しかし、日本の大手取引所が取り扱っているのは30種類にも満たない。取引には日本人がほぼ参加していないのが実情だろう。
最大手のビットコインはつい最近「タップルート」と呼ばれるアップグレードをして、プライバシーやセキュリティなどが向上した。仮想通貨業界が進化していくなかで、日本語ブームも独自の発展を遂げそうな気配である。(取材・文/白戸京子)
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