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樺沢紫苑の「読む!エナジードリンク」10代のメンタルが危ない!増える子供の自殺を食い止めるには?

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.12.20 06:00 最終更新日:2021.12.20 06:00

樺沢紫苑の「読む!エナジードリンク」10代のメンタルが危ない!増える子供の自殺を食い止めるには?

孤独に悩む子供たちが増えている

 

■コロナ禍の日本でも10代の自殺が増加

 

 これを海の向こうの話と片づけるわけにはいきません。日本の10代の自殺の問題も深刻です。令和元年(2019年)までの10年間、日本の自殺者数は毎年連続で減少していました。しかしながら、20歳未満の自殺者数だけがほぼ横ばい。結果として、全自殺者に占める「10代の割合」は、毎年増加しているのです。

 

 さらに、コロナ感染が爆発した2020年。10代の自殺者数は、777人。前年比でなんと118人(18%)も増加しているのです。緊急事態宣言中は、オンライン授業となり学校に行けない。友達と顔を合わせることもできず、一緒に遊ぶこともできないことは、子供達にとって大きなストレスとなっていたでしょう。

 

 2020年は10代の自殺に加えて、女性の自殺者数が増えたことも大きな話題になりました(男性の自殺者数は微減)。社会が混乱したり経済的な打撃に見舞われたりすると、そのしわ寄せは女性や子供といった社会的な弱者にも深刻な影響を与えることが浮き彫りになったわけです。

 

■孤独と絶望で自殺は起きる

 

 では、どうすれば自殺に向かう人達の衝動を食い止め、彼らを苦境から救うことができるのでしょうか?

 

『ディア・エヴァン・ハンセン』で自殺してしまうコナーは、家族にも誰にも相談せずに、ある日いきなり自殺します。事前に相談してくれればよかったのに、ひょっとすると何か力になれたかもしれない……。遺された家族や友人たちは必ずそう思います。

 

 自殺者の心理を調べた研究では、自殺する人のほとんどは孤独と絶望の心理にとらわれることがわかっています。日本の自殺者の場合も、3人に2人が誰にも相談せず、自殺をほのめかすこともなく、むしろ普通に生活していて、いきなり自殺するのです。「誰にも相談できない」「相談してもしょうがない」「自分の話なんか誰も聞いてくれない」「誰も自分を助けてくれる人はいない」……。このように、孤独が絶望へと変化し、自らの破滅へと至るのです。

 

■メンタル疾患の予防は「つながり」

 

 本作でエヴァンが歌い、SNSで拡散していく楽曲『You Will Be Found』(君はひとりじゃない)。この曲に、映画の重要なテーマが託されています。

 

 孤独だと思われていたコナーにも回復施設に友人がいました。そして、コナーを心配する家族もいたのです。エヴァンも、最初は「自分には友達が1人もいない」と思っていましたが、彼を支える、彼を気遣う友人達がいたことに気づきます。

 

 そして、シングルマザーで息子とゆっくり話す時間もないほど忙しく見える母親も、なによりエヴァンのことを心配していた。「自分は孤独だ!」と思っていても、じつはそうじゃない。あなたは1人じゃない!

 

 もっと心を開いて、自分の気持ちを話そう。きっとあなたの気持ちをわかってくれる人がいるはず。もっと人とつながろう。あなたは1人じゃないーーそんなメッセージが『You Will Be Found』にこめられています。

 

 メンタル疾患や心の問題を描いた映画は、たくさんあります。しかしながら、それらの多くが「問題提起」はするものの、解決法までは示していません。『ディア・エヴァン・ハンセン』のすごいところは「10代のメンタルの危機」を問題提起するだけではなく、解決法まで示しているところです。

 

 その解決法とは、「もっと人とつながろう」「もっと心を打ち明けて、互いに話をしよう」「つながりを強めていこう」というものです。

 

 コロナの感染長期化で、人とつながりにくくなってはいますが、それでも苦境から救ってくれるのは親子、家族、友達といった人のつながりです。『ディア・エヴァン・ハンセン』を観て、強くその重要性を再確認したのです。

 

 

かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計60万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動

 

イラスト・浜本ひろし

 

( 週刊FLASH 2021年12月28日号 )

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