■(3)失敗体験が少なすぎる
東大前の事件の加害者は、まだ高校2年生で受験まで1年あるわけだし、試験の成績が数回悪くても、いくらでも挽回できそうなのに、将来に「絶望」して、凶行に及んでいる。これには、子供のころからの「失敗体験」が少ないことも原因として考えられます。
学生時代に失敗体験が少ないまま社会人になると、非常に大変です。一流大学を優秀な成績で卒業し、一流企業に入社したある新入社員がいました。
上司(私の知人)が彼の仕事のミスを指摘したところ、翌日から会社に来なくなり、そのまま退職届を出して退職したそうです。厳しく怒鳴りつけたわけでもなく、ただ普通に注意しただけ。メンタルが弱すぎます。
親や教師に叱られたことがないという若者が増えています。また「子供に苦労させたくない」「子供に失敗させたくない」という親も多くいます。
そんな環境で育った若者が、社会に出て人生で初めて叱られるとすれば、精神的に落ち込むのも当然です。苦労や失敗がないまま社会人になると、厳しい社会生活に耐えきれず、人生を棒に振ることもあり得ます。
学生時代は、新しいことにたくさんチャレンジし、たくさん失敗し、たくさん恥をかいて叱られること。社会人になるまでに、100回は失敗すべきでしょう。失恋したり、試験で悪い点をとるのも、人生には必要な体験なのです。
それによって、精神的な強さ、あるいは精神的なしなやかさ(レジリエンス)が鍛えられます。多少の失敗や挫折で、自暴自棄になることはないでしょう。「ハシカと失敗は、若いうちにすませるべき」です。
また、子供がいる人は、子供が間違ったことをしたときは、きちんと叱ること。これで、「人生で初めて叱られたのは会社」などということも避けられます。
「0−100思考」「自尊感情が低い」「失敗体験が少なすぎる」、この3つのいずれかにあてはまる人は、かなり多いと思います。これらは、「メンタルの弱い人」の特徴そのものともいえますので、心あたりのある人は、少しずつでも改善していったほうがいいでしょう。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計60万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動
イラスト・浜本ひろし