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女性自衛官にインタビュー「男との体力の壁」どう乗り越えた?

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2022.03.26 11:00 最終更新日:2022.03.26 11:00

女性自衛官にインタビュー「男との体力の壁」どう乗り越えた?

 

 自衛官に必要なものは? と考えるとき、ナンバー1にあがるのは「体力」ではないでしょうか。防衛大学校の受験案内パンフレットの「よくある質問Q&Aコーナー」にも「体力に自信がないのですが、大丈夫ですか?」というQがあります。

 

 筆者も、昼休みや課業後などに体力練成に励む自衛官をよく目にしており、筋力トレーニングは大切なのだろうと思います。個人差はあるにせよ、平均的にみれば、体力という点で男性は女性よりも優れていそうです。

 

 

 実際に、多くの女性自衛官が「体力に自信がなかった」と筆者に話していますので、不安を感じながら自衛隊に入隊したようです。

 

 体力に自信がなかった彼女たちにも、厳しい訓練が待ち受けていたはずですが、その壁をどのように乗り越えたのでしょうか。

 

 体力に関する話を聴かせてもらった際に、元々の体力の有無や得手/不得手以上に、日々のトレーニングに一生懸命向き合ってきたという当時の語りが多くありました。

 

 厳しい訓練の経験が、思い出したくもない辛いこととして語られるのではなく、目の前の課題に諦めずに取り組んできたこととして語られています。

 

「私は体力があった方だからそんなに心配はしなかったですけど、周りを見ていると、運動が苦手な女性もいましたね。走れないとか、筋トレが得意じゃないとか。

 

 腕立てをするように言われたときに、普通にならできますけど、顎を床につけるくらい腕を曲げなくてはいけない。そこまでのレベルとなると私もできなかったですけど、そういうのは入隊してから段階的に鍛えていくのですよね。

 

 できないことをやれとは言われなかったので、一生懸命トレーニングを積み重ねれば、だんだん伸びていくものなのです」

 

「私は運動ができるわけでも好きでもなかったですけど、だからといって落ちこぼれることはなかったという感じです。水泳訓練だったり武道訓練だったりとかも別に上手いわけではなく、どちらかというと下手な方だと思うのですけど。

 

 重たい荷物を背負って長い距離を歩いて、その中でいろいろな状況が付与されていくのをこなしながら進んでいく訓練があって、その訓練途中で倒れちゃう子もいましたけど、それは女性に限ったことではなく男性も倒れていたので、おそらく倒れた子自身も『女性だから』と受け止めたわけではないと思います。男性もバタバタ倒れていましたからね」

 

 最初は訓練についていけなかったとしても、苦しいのは自分だけではない、めげずに向き合えば自ずと体力がついてきた、ということで、体力という壁を乗り越えてきたようです。

 

 また、体力そのものが重視されている部分は当然にあると思いますが、みんなで徐々に鍛え上げていくというステップは、仲間意識を醸成するという観点からも有効なようです。

 

■体力がハンディになるか

 

 それでは実際の任務遂行において、体力はどれくらい重要なのでしょうか。自衛官の仕事に性別は関係ないため、職務内容によっては一定の体力が求められます。しかし、それもチーム力でカバーしていくので、男女差はあまり意識されません。

 

「(防大)学生の下積み時代は、行進訓練や水泳訓練などがあるので体力をそこそこつけないといけないなと思うのですけど、実際に自衛官として部隊に配属されたら体力だけじゃないですよね。

 

 重たい土嚢を持ってどれだけ速く走れたとしても、一人だけ速く走れたところで意味がないじゃないですか。みんなができる速さじゃないといけないですから。

 

 なので、任官してからの各種任務においては男女での致命的な体力差を感じたことがなかったですね」

 

 また、仕事経験を積んでより高位の幹部自衛官となっていくと、求められる能力の中で、「体力」のウェイトは下がり、別の能力が重視されるようになるようです。

 

「防大在学中や幹部候補生課程入校中など、教育、訓練を受けている期間は、体力は確かに必要です。

 

 ただ、例えば艦に乗るに当たっては、むしろ体力はあまり使わないですね。重たいものを幹部自衛官が運ぶことはそこまでありませんし、作業というよりも監督する立場なので、作業を円滑にいくように計画したりとか、その場で指導、指揮したりとか、そういったことをやります。

 

 出港中とかで当直に当たるとずっと立ち仕事ということがあるので、忍耐力が必要な面はあるのですが、体力はそこまで使わないですね」

 

「入隊当初と今では体力についての見方や考え方は全然違うと思います。幹部候補生課程の期間中は、もう本当に体力勝負のところが大きかったので、私は体力には自信がある方だったのですけど、男性についていけなくて劣等感を感じることもありました。

 

 訓練の途中で、もう私これ以上できないって諦めることでチームに迷惑がかかることがあって、それがやっぱり一番きつかったんですよね。

 

 けれども、部隊で実任務に就いたらあまりそのような場がないんです。つまり、体力で何かを競うのではなくて、技術、技能なので、そこに男女の差は感じないなと思いました」

 

 自衛官として任官する前の段階では体力を必要とする訓練が多く行われるため、男女の体力差を実感するようです。しかし、部隊等で勤務しながら指導、指揮する立場になっていくと、体力が重視される機会は少なくなっていきます。

 

 それでは、なぜ訓練で厳しいトレーニングを経験する必要があるのでしょうか。これに関して興味深い発言がありました。「自衛官とはトレーニングを含めて自分を律するものだ」というものです。

 

 時に厳しい環境に身を置く自衛官ですから、自分を限界まで追い込むことへの耐性や、他者との競争心、粘り強さなども求められます。トレーニングで体力を強化するだけでなく、自衛官としての気概のようなものを「訓練」を通じて学ぶことが期待されているようです。

 

 また同期の中で自分の位置を相対的に把握し、自分は自衛官としてここをできるようにしよう、ここに力を入れよう、と目標を持つためのものという意見もありました。

 

 訓練で求めるのは「高い身体能力」以上に「強い精神力」であるとすると、女性自衛官に対して、一定レベル以上の体力が期待されている、ということではないようです。

 

 ちなみに、前述した防衛大学校受験案内パンフレットの「体力に自信がないのですが、大丈夫ですか?」というQには「A.大丈夫です。」と回答されています――。

 


 以上、上野友子氏、武石恵美子氏の新刊『女性自衛官 キャリア、自分らしさと任務遂行』(光文社新書)をもとに再構成しました。いまだ全体の8%未満と超マイノリティである女性自衛官にインタビューし、日本社会で働く女性が共通して直面する葛藤やキャリア形成の問題点をあぶり出します。

 

●『女性自衛官』詳細はこちら

 

( SmartFLASH )

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