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樺沢紫苑の『読む!エナジードリンク』なぜ「自分は大丈夫」という人ほど騙されるのか?
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2022.05.16 06:00 最終更新日:2022.05.16 06:00
(3)ザル見、ザル聞き、ザル読み
「あなたの脳は猿のようなものだ」。じゃなくて、「あなたの脳はザルのようなものだ」というと、あなたは怒るでしょうか? あなたに限らす、すべての人の脳はザルです。
私たちの脳は、「必要な情報」だけを集め、「不必要な情報」をスルーするようにできています。そうでなければ、日々膨大な情報にさらされている私たちの脳は、数日でパンクしてしまいます。
10年以上前、私が精神科の外来で診療しているときの話です。初めて来院した患者さんを1時間ほど問診し、最後の10分で、診断や治療法、薬の飲み方について説明しました。最後に「わかりましたか?」と尋ねると、「わかりました」と答えました。しかし、患者さんの反応からして理解していなさそうだったので、「今の話を覚えている範囲で言ってみてください」と尋ねたところ、患者さんは何も答えられなかったのです。その後も、たくさんの患者さんに同じ質問をしましたが、説明された内容を論理立てて復唱できる人は、一人もいませんでした(メモをとりながら聞いている人を除いて)。
人の話を真剣に聞いているようでも、まったく記憶に残っていない。まさに「ザル聞き」。聞くだけではなく、「見る」「読む」でも同じ現象が見られることから、私はこれを日光東照宮の「見ざる、聞かざる、言わざる」にちなんで、「ザル見、ザル聞き、ザル読み」と呼んでいます。
「自分は絶対に詐欺に引っかからない」と思っている人の脳は、詐欺情報にまったく興味がなく、必要性もゼロなので、仮にニュースの詐欺特集を見たとしても、その情報は完全にスルーし、記憶にも残らないわけです。
では、詐欺に騙されないためにはどうしたらいいでしょうか?
それは「自分は騙されない」という思い込みをいったん捨て去ること。「最近、オレオレ詐欺が増えている」というニュースを見たら、「自分は引っかからないから大丈夫」とは思わず、「そういうことがあるんだな」というニュートラルな視点や立場で情報をインプットすることです。
ニュートラルに情報を扱う。これは別に詐欺に関することだけに限りません。テレビやネットの情報を見る際に、最初から結論を決めずに、こんな情報もあるのか、こんな意見もあるのかと、スポンジが水を吸収するようにインプットしていく。判断や決断は、情報がたくさん集まった段階ですればいいのです。
あるいは、あるテーマについて判断をする場合「賛成派」「反対派」「中立派」の3つの異なる立場の意見をインプットすることも大切です。たとえば、それぞれの立場で書かれた本を1冊ずつ読めば、ひとつの視点に偏ることなく、バランスのよい情報収集ができ、結果としてバランスのよい判断、決断を下せるようになります。
詐欺的なメール、メッセージ、あるいはフェイクニュースが横行する昨今、情報のインプットについて、あらためて見直すことは重要です。情報をザルのように通過させないためには、「注意のアンテナを立てる」ことが必要。自分は何を知りたいのか? 自分は何に関心があるのか? それをふだんから明確にして、ニュースを見たり、ネット情報をインプットすると、インプットの効率が何倍も上がるだけではなく、圧倒的に記憶に残るようになるのです。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計60万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動