■シン・ウルトラマンの仕事術
昨年『シン・エヴァンゲリオン劇場版?』で大ブームを巻き起こした庵野秀明氏が企画、脚本などをつとめた新作『シン・ウルトラマン』。観客動員数が公開14日めで150万人を突破し、大ヒットしています。一方で昔ながらのウルトラマンファンからは、批判が出ているのも事実です。カラータイマーがない、マイナーな怪獣・星人ばかり登場する、昔のウルトラマンの世界を冒涜している……。特に、ラストのウルトラマンとゾーフィの数分間に及ぶ哲学的な問答には、「これはなんなんだ?」と頭を抱えた人も多いでしょう。
『シン・ウルトラマン』を観て私が思ったのは、旧ウルトラマンはインプット仕事のヒーローであるのに対し、シン・ウルトラマンは、アウトプット仕事のヒーローへと進化している、ということでした(以下、ネタバレが含まれていますので、ご注意ください)。
瀕死の状態となったシン・ウルトラマンを「光の星」から救いに来たゾーフィ。ゾーフィは、会社になぞらえれば、ウルトラマンの上司にあたる存在です。人間と融合することで自我が目覚めたウルトラマンは、地球ごと人類を滅ぼそうとするゾーフィの意に反して自分で考え、自分で決断し、自分の意志を貫いてゾーフィの企みを阻止しようとします。そして、自分の気持ちや思いを言葉で表現する。まさに、「アウトプット仕事を実践している」ともいえます。
言われたことを言われたとおりにやるだけのインプット仕事は卒業し、これからはアウトプット仕事に徹しようーこれからの時代に向けた仕事のやり方=「シン・仕事術」が提示されているところが、『シン・ウルトラマン』の「シン」(新しい)たるゆえんです。
■日本政府vs.メフィラス星人
『シン・ゴジラ』では、ゴジラの造形や迫力もさることながら、日本のガチガチの縦割り行政や、事なかれ主義が蔓延する政治家・官僚の描写に注目が集まりました。会議をしないと何も決められない、結局誰が責任を取るのかあいまいなまま決断が下せない……。その描写は『シン・ウルトラマン』にも踏襲されています。星人たちの口車にまんまとのせられて不平等条約を結んでしまう日本政府の対応に、言われたとおりにやるだけのインプット仕事の無責任さを見いだすことができるのです。
一方、本作で異彩を放つのが、山本耕史演じるメフィラス星人です。星人が「特命全権大使 外星人第0号 メフィラス」と書かれた名刺を出すシーンにはドキッとさせられます。それは宇宙人と地球人のやり取りを「会社組織の交渉」に見立てた風刺だとわかります。
メフィラス星人と日本政府の交渉は、宇宙人対人間の交渉のように見えますが、そこで強調されるのは、日本の政府、官僚組織における責任のなすり合いとインプット仕事。一方、メフィラス星人側は、論理的にプレゼンをおこない、そのアウトプット力は秀逸。全権大使として裁量権を持つメフィラス星人は、自分の頭で考え、判断も速く、臨機応変にすぐに行動に移します。また、メフィラス星人の決め台詞は、「善は急げ」などの諺を口にした後に「それは私の好きな言葉です」「私の苦手な言葉です」と、自分の意見を添えること。けっして自分の意見を言わない日本人に対し、メフィラス星人は必ず自分の意見を述べるのです。つまり、メフィラス星人は、アウトプット仕事を極めているのです。
メフィラス星人は、ある意味「黒船」(外圧)の象徴であり、今後、日本の組織や個人が、アウトプット仕事に変わらないと先行きが暗い、自分で考え自分で判断する、アウトプット力を高めることの重要性を鋭く指摘しているのです。
インプット仕事とアウトプット仕事。この切り口で仕事のやり方を見直すと、さまざまな改善点がみえてきます。ぜひ今からアウトプット仕事を意識してみませんか。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計60万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動