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最低でも500万円…エベレスト登山にはいったいいくら必要なのか?

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2022.07.22 11:00 最終更新日:2022.07.22 11:00

最低でも500万円…エベレスト登山にはいったいいくら必要なのか?

エベレスト(写真:AP/アフロ)

 

 2021年春にエベレスト挑戦を決めたはいいが、出発までにやるべきことはたくさんあった。普通は数年かけて準備をするのに出発までもう1ヶ月半しか残されていなかった。

 

 ヒマラヤのほとんどの山の登頂には最低でも1ヶ月、エベレストにおいては約2ヶ月はかかる。一般の会社員であればそれだけの休みを取れるかどうかが大きな壁となるが、僕はフリーランスの写真家なのでその点は問題ない。

 

 

 遠征においていつも最大級の障害として前に立ちはだかるのは資金集めだった。本当に毎回苦労する。勝手に世界の僻地に行って撮影をするだけならそれほど資金は必要ない。

 

 往復の交通費を除けば、食費や宿代くらいのものだし、基本テント生活が多いのでホテル代は無料かせいぜい1泊1000円くらいのものだった。それでも、数ヶ月におよぶ遠征になれば50万円以上はどうしたってかかってくる。

 

 フリーになった当初、まったく仕事もお金もない僕は年末年始に工事現場でアルバイトをしたり、消費者金融でお金を借りたり、時には新薬の安全性を確めるという体を張ったバイトをして、死に物狂いでその遠征費を稼いでいた。僻地に行かなければ撮れない。撮れないと何も生み出せないのでとにかく必死だった。

 

 それから数年が経ち、徐々に写真家としての仕事も増えてきたが、それでもヒマラヤ登山の遠征費が数百万円という単位になることには驚いた。

 

 はじめてのヒマラヤ挑戦となったアマ・ダブラムでは150万円、次に登ったマナスルでは300万円ほどかかった。その内訳には入山料、一緒に登る相方シェルパへのギャラ、遠征中の食料や酸素ボンベ、現地までの航空代、各申請の手配料など諸々が含まれる。

 

 エベレストにいたってはさらに高い。僕が調べた限りトータルで安くても500万円、高いと1000万円以上という料金だった。基本的にほとんどの人たちがエージェントを通して登山許可を申請する必要がある。どのエージェントにするのかによってもサービスは変わり、もちろん価格も変わってくる。

 

 当然、最新鋭の機器を使い、毎日精度の高い天気予報を欧米から買うような遠征隊は参加費が高くなる。噂で聞いたことがあるが、そんな超高級チームのベースキャンプにはシャワーブースが設置され、ダイニングテントにはワインなんかも常備されているらしい。本当かどうかは分からないが、それは高くなるのも納得する。

 

 僕がいつもお世話になっているエージェントの遠征費はそこまで高くはない。平均くらいかむしろ安い方だと思う。エベレスト登山単体だと600万円くらいだった。

 

 ちなみに、これはシェルパと2人のチームの料金になる。より大規模なチームになれば、それぞれで割れるものも出てくるのでその分安くなってくる。確か僕のエージェントでも6人以上の隊になれば500万円くらいまで下がったような気がする。

 

■山の装備

 

 エベレスト登山に行くと話すと、「いくらかかるの?」という質問と同じくらい「何を持っていくの?」と聞かれる。カメラ、ウェア、食料、登攀器具。

 

 これまでの遠征で大きく変わったのはカメラだ。今までよりも小さく軽いミラーレスに変えた。ただ、耐久性やバッテリーの持ちに不安があったので、念のために予備機としてマナスルでも使えた一眼レフカメラも持っていき、バッテリーもいつもより多めに持っていくことにした。

 

 さらに、いつも通り最終手段として「写ルンです」も持っていった。知人から南極で他のカメラは壊れたのに写ルンですだけは動いたという話を聞いてからいつも最終兵器として頂上まで持っていっている。

 

 カメラと同じくらい気を使うのがウェア類だ。僕が挑む極限の世界において着るものは生死に直結する。

 

 特に聞き慣れないであろうダウンのワンピースというものは8000メートル峰の登山において必須アイテムだ。ダウン素材のツナギになっていて、着るとディズニーキャラクターのベイマックスみたいになる。

 

 何度まで耐寒できるのか測ったことはないが氷点下30度くらいなら問題なかった。日本で着たら真冬でも暑すぎで汗をかくくらいのしろものだ。

 

 もうひとつ欠かせないアイテムを選ぶなら三重靴だろう。その名前の通り、三重になっている登山ブーツだ。凍傷は手足の指先や鼻先など体の末端からなっていくため、標高8000メートルを超えるような山は足を守るために三重の分厚いブーツを履かなくてはいけない。

 

 想像にたやすいと思うが、靴が三重になっているからとても重い。片足1キロ以上もする。そして履きづらい。ただでさえ履きにくいのに8000メートル近いファイナルキャンプでこのブーツを履くのは本当に苦労する。

 

 靴を履く、たったそれだけのことなのに冗談ではなく10分以上はかかるし、息も切れてしばらく動けない。

 

 行動食だと柿ピーやベビースターラーメン、ナッツ&ドライフルーツ類は欠かせない。腹持ちが良いことに加えてナッツ類はエネルギーになるまでのスピードが速い。そして、とらやの羊羹は最後のサミットプッシュの時、いつもひとつポケットに忍ばせるのがお決まりだ。

 

 最後の最後、あとひと踏ん張りしなくてはいけない時にこれを食べて登る。もちろん糖分はエネルギーになるというのもあるし、チョコレートのようにガチガチに凍らないのが良い。何よりも美味しい。

 

 この標高まで上がると味覚が変わることが多々あるが、個人的には羊羹とコーラだけはどこで食べても変わらない味だった。本当にギリギリの状況でこの美味しいと感じられることは意外と大切ではないかと思っている。

 

 一度でも登山をしたことがある人は分かると思うが、荷物は1グラムでも軽い方がいい。重さは苦痛や危険に直結する。まして8000メートルという世界になると、それはかなり顕著に表れてくる。無駄は徹底的になくしたい。

 

 例えば僕は日記を書くためのノートは表紙を破くし、トイレットペーパーの芯も抜く。チョコレートの包み紙だって持っていかない。書けない表紙や拭けない芯などは、ヒマラヤ登山で使う上では何の役にも立たない重りでしかないのだ。

 

 この徹底的にいらない重さを削るという作業は精神面においても重要な役割をもたらす。ベースキャンプを出発して何日か経つ頃、体力に限界が近づいてくる。

 

 酸素も薄く、眠れない日が続くだろう。そんな時、もう少し軽くすることができたかもしれない、などというマイナス思考はさらに足を重くする。徹底的にやった。自分にできることは全部やりきったと思えるからこそ余計なことを考えないで登ることができる。

 

 本当にしんどくなってきた時、そんなやりきったという自信が最後に自分を助けてくれるのだ。

 

 

 以上、上田優紀氏の新刊『エベレストの空』(光文社新書)をもとに再構成しました。ネイチャーフォトグラファーが「世界の頂」の全貌を綴ります。

 

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( SmartFLASH )

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