■無用のトラブルに巻き込まれない方法
猛暑日が続いていたころのことです。信号が青になり、横断歩道を歩きだすと、私の3mほど前で、男性と女性の肩がすれ違いざまにぶつかりました。すると、男性は振り返り、女性に向かって「バカヤロー!」と大声で怒鳴ったのです。私のすぐ目の前で起きた出来事だったので、ビックリしました。
私は、2人がぶつかる瞬間を見ていましたが、双方とも避けようという動きがまったくありませんでした。だから、女性が一方的に怒鳴られる筋合いはありません。いずれにしても、猛暑日が続いて、睡眠不足、あるいは全身の疲れが溜まっていたのか、2人とも集中力や注意力が低下していたことは間違いないでしょう。
こういう無用なトラブルを回避するためにも、道を歩いているときや電車に乗っているときは、「ボーっとしない」ことが大切です。文字にすると至極当然のことのように見えますが、できている人は意外に少ないのが現実です。
とくに現在は、睡眠不足に加えて、新型コロナの第7波や安倍元総理への銃撃事件など、悪いニュースの影響もあって、想像以上に「脳疲労」に陥っている人が多いと想像できます。
「ミスや不注意が多い」「感情のコントロールができない」のは、いずれも脳疲労の徴候です。
■脳疲労を改善する方法
脳疲労の状態を改善するには、やはり睡眠や運動が重要です。
夏場は夜間の暑さのせいで睡眠の「質」が低下している可能性が高いので、就寝時にエアコンを快適な温度に設定したり、除湿やサーキュレーターで微風を送ったりするなどの工夫も必要です。
それでも、夜にグッスリ眠れない人は、日中、短時間の仮眠をとるのもいいでしょう。
ところで、早くも夏バテ気味の人は、運動不足に要注意です。夏バテで疲れているときこそ、汗が流れるような中強度の運動をすることが必要になってくるのです。
「早歩き」や「階段の上り下り」といった中強度の有酸素運動を1日30分以上おこなうことで、成長ホルモンがたっぷり分泌されます。成長ホルモンは疲労回復に役立ちますし、睡眠の質の改善にもつながります。
本連載で私が繰り返しおすすめしている朝散歩は、セロトニンを活性化させます。前述のようにセロトニンはイライラなどの感情を抑えて安定させる効果がありますので、「怒りっぽい」「すぐにイライラしてしまう」という人ほど、午前中に15分程度の散歩を実践してください。
また、以前、本連載でお伝えしましたが、映像などを見たときの視覚情報は文字情報の6倍記憶に残りやすいという研究結果があります。つまり、映像などは文字よりも、6倍も脳を刺激するのです。
ネガティブなニュースによって、脳は間違いなく悪影響を受けています。お疲れ気味の人は、テレビやネットの動画ニュースからなるべく距離を置くことをおすすめします。
冒頭で挙げたような電車の乗客同士のトラブルや暴力事件は、氷山の一角です。
実際には、ストレスやイライラを溜め込んで、「怒りっぽい」「キレやすい」状態になっている人たちがたくさんいるはずです。もしかしたら、あなたもその一人かもしれません。
まだまだ暑さは続きます。今年の夏は、例年以上に気温が高いという予報も出ています。
熱中症の危険は連日報道されていますが、それだけでなく、メンタルの疲れや脳疲労にも十分用心してください。「睡眠、運動、朝散歩」で、ストレスと酷暑に打ち勝つことを心がけましょう。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計60万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動
イラスト・浜本ひろし