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樺沢紫苑の『読む!エナジードリンク』私が精神科医になった理由

ライフ・マネー 投稿日:2022.11.07 06:00FLASH編集部

樺沢紫苑の『読む!エナジードリンク』私が精神科医になった理由

私の人生を決めた映画 『ドグラ・マグラ』

 

 私には、どうしても観直したい映画がありました。

 

 その作品は……『ドグラ・マグラ』です(松本俊夫監督、1988年)。

 

 先日、高画質のプロジェクターとサラウンドシステムを私のYouTubeスタジオに導入し、ホームシアターが完成しました。そこで観る記念すべき1本めの映画は何を選ぶか。そうだ! ということで、映画『ドグラ・マグラ』を34年ぶりに観たのです。

 

 

 この作品は私の運命を変えました。もし私が『ドグラ・マグラ』に出合わなかったならば、「精神科医樺沢紫苑」ではなく、「内科医・樺沢紫苑」になっていたかもしれません。

 

 そこで今回は、小説版も含め、この『ドグラ・マグラ』という作品について語ります。

 

■書店に置かれていた1冊が光り輝いて

 

 今からさかのぼること32年前、1990年の夏。当時、札幌医科大学医学部6年生だった私は、医学部を卒業した後、どの科を専攻すればいいか迷っていました。

 

 医学部では、6年生の2月に医師国家試験があります。その勉強に専念するため、6年生の夏休みが終わるまでに進路を決めるのが通例でした(最近では、医学部卒業後、2年間の初期臨床研修が義務づけられているため、専攻はその後に決めるのが一般的です)。

 

 どの科を専攻するかは、自分の自由意志です。私は医学部に入学したときは、「ごくふつうの内科医」を目指していました。しかし、臨床研修で各科を回る過程で、データ採取や検査中心だった内科のあり方に疑問を感じるようになったのです。

 

 内科でのカンファレンス(症例検討)は、データについて議論する場にすぎません。そこには「一人の人間としての患者」という視点が抜け落ちているのではないか? これは、私が進みたい道なのか?

 

 一方で、初診患者の面接に1時間以上もかける精神科は、「人間と向き合う仕事だな」と感じ始めていました。

 

 内科に進むべきか? いや、精神科に進むべきか? 一生を決める重要な決断。夏休みはもうすぐ終わります。

 

 そんな折、国家試験の受験勉強の気分転換に、お気に入りの書店に入ると、夏の角川文庫フェアが開催されていました。そこに並んでいた1冊の本が、光り輝いて目に入ってきたのです。

 

 その本のタイトルは……『ドグラ・マグラ』でした。

 

■最後まで読むと頭がおかしくなる?

 

 じつは私はその約2年前(1988年)に、映画版『ドグラ・マグラ』を観ていました。

 

 記憶喪失の主人公・呉一郎(松田洋治)が精神科の閉鎖病棟の隔離室で目を覚まします。自分はいったい何者なのか? 自分はいったい何をしたのか? なぜ、精神科病棟に入院しているのか?

 

 呉一郎はその謎を明らかにすべく、精神科の正木敬之教授(桂枝雀)、法医学の若林鏡太郎教授(室田日出男)と対話をする過程で、驚愕の事実が明らかにされるのです!

 

 と、ストーリーをシンプルにまとめてみたものの、実際の映画は極めて入り組んだ構成とストーリーのため、観ている途中でまったくわけがわからなくなります。迷宮に陥り、同じ道を堂々巡りさせられるような感覚にとらわれるのです。

 

 原作は、探偵小説家・夢野久作の同名の小説。構想・執筆に10年以上の歳月をかけ、1935(昭和10)年に刊行されました(翌年に夢野久作は死去しています)。小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、中井英夫『虚無への供物』と並んで日本探偵小説三大奇書にも数えられる本書は、「最後まで読むと頭がおかしくなる」という噂があるほどのいわくつきです。

 

 映画を観た直後、「これは原作を読まねば!」と思ったものの、国家試験の勉強も始まり、多忙な時期だったため、そのまますっかり忘れていました。

 

 その本が今、目の前にある! 私は買って帰ると、すぐさま一心不乱に読み始めたのです。

 

( 週刊FLASH 2022年11月15日号 )

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