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樺沢紫苑の『読む!エナジードリンク』精神科医が唸った“魂を揺さぶる”2022年の映画ベスト10

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2022.12.26 06:00 最終更新日:2022.12.26 06:00

樺沢紫苑の『読む!エナジードリンク』精神科医が唸った“魂を揺さぶる”2022年の映画ベスト10

精神科医、そして映画評論家・樺沢紫苑が選ぶ2022年の映画ベスト10

 

 この時期、映画雑誌や新聞などで2022年の映画ベスト10が続々と発表されます。私も今回、2022年に日本で公開された映画の中から10本の作品をベストテン形式で発表します。精神科医ならではの視点で選考していますので、人間の心理やメンタルを深く掘り下げた作品が上位に来る結果となりました。

 

■第1位『流浪(るろう)の月』

 

「スティグマ」を扱った作品。スティグマとは、差別、偏見を指しますが、もともとは「烙印」という意味です。

 

 

 一度押された烙印は、本人がどれほど悔い改めても、消えるものではありません。一生、差別や偏見で苦しみ続ける人もいます。少女誘拐犯という烙印を押されてしまった本作の主人公・佐伯(松坂桃李)も、ひっそりと暮らそうと願いますが、社会がそれを許しません。そんななかで、誘拐された少女・更紗(広瀬すず)は大人になり、佐伯と出会います……。

 

 決して社会から認められることのない、2人の「禁断の愛」。いや、愛というより「寄り添う」といったほうがいいでしょう。人生を生きていくには、寄り添ってくれる誰かが必要。そして、差別、偏見、虐待など、どれほど苦しいことがあっても、私たちは生きていかねばならない。そんな、強烈なる「生」のメッセージに魂が揺さぶられます。

 

■第2位『Coda コーダ あいのうた』

 

 米国アカデミー賞で、作品賞、助演男優賞、脚色賞の三冠受賞。聴覚障害者の両親と兄を持つ高校生のルビーは、家族のなかでただ一人の健聴者。歌うことが好きな彼女は、音楽の世界を目指すのか、家に残り家族の世話を続けるのか、究極の選択を迫られます。

 

「多様性の時代」といわれますが、障害者に対する差別、偏見は、根強く残っています。本作を通して、聴覚障害者がどれほど苦労して生きているかを垣間見ることができます。

 

 障害者の問題という社会的テーマ。そして、少女の自立、親との折り合いという個人的、心理的テーマが、ダブルで描かれることで、映画に圧倒的な深みをもたらしています。

 

 ルビーの音楽教師の献身的な関わりも感動的。苦しい状況でも、真剣に支えてくれる人が一人でもいれば、人は救われる。勇気を持って、一歩踏み出すことができるのです。

 

■第3位『すずめの戸締まり』

 

『流浪の月』『Coda』『すずめ』の上位3作品は、どれも甲乙つけがたい。私の中では同率1位といっていいでしょう。『すずめ』については、第82、83回でくわしく解説しました。

 

『君の名は。』『天気の子』と特大ヒットを連発した新海誠監督ですが、本作では今まで以上のチャレンジが見られます。その一つが、震災の描写。これについては賛否両論ありますが、トップランナーになっても守りに入らず、常に新しいチャレンジをしていく新海監督の「描く勇気」はすごいと思います。

 

■第4位『余命10年』

 

 美少女が余命宣告をされるストーリーと聞くと「またか」と思う人がいるかもしれませんが、本作は余命を半年、1年ではなく「10年」とすることで、通り一遍の展開ではなくなっています。

 

 人間、同じ生きるのなら、より楽しく生きたほうがいいし、その楽しみを共有してくれるパートナーがいたほうがいい。寄り添う人がいてくれるだけで、救われるし、癒やされる。そして、生きていく勇気が得られるのです。

 

 この映画には、小松菜奈演じる茉莉の「生きる」テーマと、坂口健太郎演じる和人の「支える/寄り添う」テーマが裏表で存在しています。前半の坂口は「へなちょこ」に描かれますが、後半になるほど「支える責任感」で精悍な顔立ちになっていく。私が小松菜奈推しということもありますが(笑)本作で10回は泣きました。私の中で「今年いちばん泣けた映画」です。

 

( 週刊FLASH 2023年1月3・10・17日合併号 )

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