2017年春から、物忘れを改善させる薬が続々と発売されている。製薬会社のHPには「脳機能を改善させ記憶力をアップさせる」「記憶のメカニズムを活性化」などと書かれている。
物忘れ改善薬の主たる成分は生薬の「オンジ」だ。薬が発売されたきっかけについて問い合わせると、「2015年に厚生労働省が出した生薬エキス製造に関するガイダンスによる」(製薬会社広報担当者)とのこと。
このガイダンスは、厚生労働省が生薬の単体での製剤化について取り決めたガイドラインだ。
資料には、生薬オンジに物忘れ改善の効果があると明記されている。厚生労働省の担当者によれば「古くから一般に物忘れに効くとされている」とのこと。
オンジは「イトヒメハギ」と呼ばれる植物の根を乾燥させたもの。イトヒメハギは中国東北部に自生していて、古くから漢方薬として親しまれてきた。その効能は多岐にわたり、咳止め、去痰、滋養強壮、不眠症改善などがある。
漢字で書くとオンジは「遠志」で、これは「志が遠大になる」ことが語源という。中国最古の薬物学書『神農本草経』では、命を養う薬として分類されているそうだ。
ただし、元が根っこを乾燥させたものなので、実際に口にするには手間がかかるようだ。
「今回、顆粒状の薬として販売されたことによって、従来の生薬として服用するよりも、普及しやすいのでは」(厚生労働省担当者)
そもそも物忘れは、脳内の神経機能の低下が原因とされる。記憶は脳の海馬といわれる部分が担うが、加齢によって海馬の脳神経が萎縮していき、記憶力の低下を招くという。
雑誌『Natural Medicines』(2004年2月号)は、オンジをマウスに与えた実験で、空間認知障害、脳神経細胞障害などに対して回復をもたらす効果があったとしている。さらに脳内の神経細胞を成長、促進させる効果もあった。
科学的にいうと、神経の萎縮をもたらすアミロイドβという物質から保護する作用がオンジにあるのだ。
「今回のガイダンスで紹介した生薬は、新たに生薬の効果を検証したものではありません。もともと古来から漢方として効果があるとされているものです」(厚生労働省担当者)
ガイダンス文書の資料に記載された生薬は約30種類に及ぶ。食欲改善、血行促進、便秘改善、滋養強壮などなど。恐るべき漢方パワーである。もしかすると、これからも続々と新薬が誕生するかもしれない。