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王将戦第5局が決着 “変幻自在”の指し手で優位に立つ羽生九段が終盤でおかした「判断ミス」

ライフ・マネー 投稿日:2023.02.27 17:47FLASH編集部

王将戦第5局が決着 “変幻自在”の指し手で優位に立つ羽生九段が終盤でおかした「判断ミス」

終局後、盤上を見つめる羽生九段(左)と、目をつぶって考えに耽る藤井九段(写真提供/日本将棋連盟)

 

 藤井聡太王将(五冠)に羽生善治九段が挑戦する、第72期ALSOK杯王将戦七番勝負。第5局は2月25日・26日、島根県大田(おおだ)市でおこなわれ、101手で藤井王将が勝利。七番勝負で3勝めをあげ、王将位初防衛に王手をかけた。

 

 名局続きの本シリーズ。この第5局もまた、素晴らしい熱戦となった。

 

 まず注目されたのは、少し不利な後手番を持つ羽生の作戦。本局では得意の「横歩取り」(羽生の側から見れば「横歩取らせ」)を採用した。

 

 

藤井「始まる前は、もちろんどういう展開になるかわからないというふうに思っていたんですけど。横歩取りももちろん、可能性としてはあるのかな、というふうに思っていました」

 

羽生「序盤、ちょっと経験のある形だったんですけど。けっこう、もう早い段階で前例のない形になって。そこからは手探りでやってたという感じでしたけど。まあでも、あんまり自信ない局面がずっと続いてたのかなっていうところですかね」

 

 藤井はちょうど2時間の長考をしたのに対して、羽生もまた2時間21分を使う。47手め、藤井が桂を成り捨てて羽生玉をかける。形勢はほぼ互角のうちに、1日めの対局が終わった。

 

藤井「桂損は部分的には仕方がないのかなと思って進めていました」

 

羽生「ちょっと対応を誤ると、一気に終わってしまいそうな局面がずっと続いてたので。まとめづらい将棋かなとは、ずっと思ってましたね」

 

 明けて2日め。まず優位に立ったのは藤井だった。

 

藤井「駒損を少し回復して、悪くないのかなと思っていたんですけど」

 

 互いの玉に王手がかかる形となっての終盤戦。羽生玉は大ピンチに見えた。しかし76手め。羽生がじっと自陣に金を打ったのが粘りのある受けだった。

 

羽生「ほかの手もいろいろ考えたんですけど、まあちょっと、受からないっていうか。なんかもう、ジリ貧になっちゃう感じだと思ったんで。あれはしょうがないかな、と思っていました」

 

 ここで藤井の手が止まる。AIは、銀を羽生陣二段めに打って攻める順を推奨していた。藤井は1時間15分考えたあと、ひとつ上の三段めに打つ。AIが示す数値はここで互角に戻った。

 

藤井「5三銀が、やっぱりからぶってしまっている形で。考えていても苦しい変化が多いのかな、と思っていました」

 

 一手の余裕を得た羽生は、いったんは反撃して藤井玉に迫る。

 

藤井「自玉のまとめ方がなくなってしまったので、その辺りで失敗しているかなと思っていました」

 

 そして82手め、羽生は自陣の桂を跳ね出した。これが自玉の詰みを際どくしのぎながら、自玉のふところを広げる勝負手。羽生はこれまで、こうした変幻自在の指し回しで、多くの栄冠を勝ち得てきた。

 

 やがてAIの評価は逆転し、数字の上では、ついに羽生が優位に立った。

 

 藤井は、これまでのタイトル戦七番勝負において、並み居るトップクラスの棋士たちを相手に、圧倒的な成績で勝ち続けてきた。第4局を終えた時点で2勝2敗になったのは、今回の王将戦が初めてのことだ。そして第5局もまたピンチを迎えている。おそるべきは羽生の底力だ。

 

 87手め。藤井は桂を打って羽生玉に迫る。残り時間は藤井39分、羽生31分。結果的に、この次の一手が勝敗を分けることになった。

 

 88手め。羽生は9分の考慮で銀を打つ。攻めではなく、受けに回った。途端に形勢は逆転。藤井勝勢となった。ここでは代わりに銀を攻めに使い、それから「王手龍取り」をかける順がまさった。結果的には、羽生が重大な判断ミスをしてしまったわけだ。終局後、そのあたりのことを尋ねられると、羽生は意外そうな声をあげた。

 

羽生「その変化はどうですかね……。うーん、あんまりそれは。いや、わからないですけど。ちゃんと調べたわけじゃないですけど。うーん、ちょっと足りないんじゃないかな、と思ってしまったんですけど。そうですか。それを選ぶべきだったんですね。いやちょっと、正確に読みきれなかったような気がしますね」

 

 めぐってきた大きなチャンスを、羽生は逃した。対して窮地を脱した藤井はもう間違えない。最後はいつもながらに鮮やかに羽生玉を詰ませて、熱戦にピリオドを打った。

 

 藤井は、これで先手番27連勝。1989年に羽生が作った先手番28連勝に迫った。

 

 もし藤井防衛となれば、この第5局はその内容、星取りの意味とともに、まさに天王山の一局と振り返られそうだ。

 

 しかしもちろんまだ、シリーズは終わっていない。第6局は羽生が先手番を持つ。そこで羽生がカド番をしのげば、最後はもうどうなるかわからない。信じられないようなドラマが起こり続けるのが、将棋界というところだ。

 

 第6局は3月11日・12日、佐賀県上峰町でおこなわれる。

 

藤井「あまりスコアは意識せずに、次局もせいいっぱい頑張りたいと思います」

 

羽生「しっかり調整して、いい将棋を指せるように頑張ります」

 

 3月5日には、棋王戦五番勝負第3局が予定されている。そこで、現在2連勝中の藤井挑戦者が渡辺明棋王に勝てば、羽生と並び史上2人め、そして史上最年少での六冠保持者となる。

 

 3月2日にはA級順位戦最終戦がある。現在トップタイの藤井が、もし名人挑戦権を獲得すれば、史上最年少名人、そして七冠めへのチャレンジも始まる。

 

(文・相川清英)

 

( SmartFLASH )

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