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手作りの塩辛と純米大吟醸で人生が変わり居酒屋経営者に

ライフ・マネー 投稿日:2017.08.10 11:00FLASH編集部

手作りの塩辛と純米大吟醸で人生が変わり居酒屋経営者に

写真:AFLO

 

 JR神田駅の北口から歩いて1分、大通りに面したビルの地下に「ふくの鳥神田店」はある。上野真史さん(44)は丸刈り。物静かで几帳面そうな雰囲気は居酒屋の店主というより、どこか禅僧を思わせる。店は58席。個室などもあるが、上野さんが立ち上げた「(株)一徳」が経営している。

 

「大学入学で下関から上京し、チェーン展開をしている居酒屋でアルバイトをしたのがきっかけで、お客様と接するのが楽しくなり、以後ずっと飲食畑の仕事をしています。就職活動を始めたときもホワイトカラーになるつもりはなく、悩んでいましたが、ちょうど、働いていた店の店長が独立しました。独立して店を経営するという選択肢はそれまで考えたこともなかったので、これだと思いました」

 

 それからが上野さんらしい。そのまま店に口をきいてもらって居酒屋チェーンの親会社に就職することも可能だったが、正規のルートで、説明会から3次の面接まで受けて入社した。入社後はそれまでバイトしていた店舗に配属され、すぐに店長となり、3年ほど務めた。27歳のときに、上野さんが勤めていた居酒屋の別店舗を経営していた社長から「うちで働かないか」と声をかけられた。すぐ行けば会社直営店からの店長引き抜きとみなされ、問題となる。

 

 そこで1年間フリーターをした。翌年、予定どおり転職。現場の店長を兼任しながらエリアマネージャー、研修の講師となった。新しく入った会社はその後全店舗を自社業態に切り替え、「ふくの鳥」などのフランチャイズ運営をおこなっている。上野さんは34歳のとき、社内の独立制度の第1号として「ふくの鳥」の経営を始めた。

 

「うちはフランチャイズ店ですが、店としてのオリジナリティを出すために、他店ではやっていない稀少部位の焼き鳥を提供しています。それから日本酒にこだわっています。なんでも突きつめたくなる性分なので、焼き鳥をもっと掘り下げて専門店のレベルにしたいと考えています。『焼き一生』というように奥の深いものです。火を通すことは簡単ですが、いかにおいしく焼くかは難しい。素材はもちろんですが、焼き方ひとつでおいしさは変わります」

 

 焼き鳥だけでなく日本酒へのこだわりも強い。年間1000銘柄を試飲し、店では600銘柄を毎年入れ替えている。常時取り揃えているのは50銘柄というから、日本酒党にはたまらない。プレミアの銘柄も仕入れのルートを持つ。上野さんが日本酒と出会ったのは30歳のときだ。これが大きな転機となった。

 

「酒屋さんのつき合いで『八海山』の酒蔵に行ったのがきっかけです。そのとき、酒蔵の社長さんのお母さんから手作りの塩辛と、市販されていない純米大吟醸をご馳走になりました。僕は日本酒の知識がありませんでしたが、とにかくおいしくて感動しました。それから独学で勉強しました。

 

 今では銘柄に合ったメニューの組み合わせや、味の系統図が頭の中に入っています。お馴染みのお客様なら、何杯ぐらい飲まれるかを伺い、味の違いを考慮して、おすすめを少量ずつお出ししたりします。

 

 日本酒は世界一おいしい。その世界を知ったので、サービスのプロとしてさらに突きつめていきたい。今日のおすすめ? 『高千代』山廃の生ですね」

 

 店の経営は順調だが、フランチャイズ店ゆえのジレンマもある。制約がいろいろあり、なかなか思ったような店づくり、サービスができない。たとえば日本酒専門と謳うこともできない。そこでフランチャイズ契約に抵触しないかたちで、社長を務める「一徳」の焼き鳥とお酒の専門性を高めた店を都内に出店することも考えている。そしてもうひとつ、震災への対応にも取り組んでいる。

 

「飲食業は立地産業なので、東京で大地震が起きたらリスクを回避することができません。でもリスクを分散することはできます。インフラが崩壊して営業再開までに数カ月かかることになれば、資金ショートを招きかねません。会社は存続するのが最大の目的なので、リスク分散のために地方での出店を準備しつつあります。ただ、解決しなければいけない問題もいろいろあります」

 

 飲食店の廃業率は高い。2年以内で50%、3年で70%、10年では92%が閉店するといわれる。その理由は市場規模の縮小と店舗数の多さにある。上野さんが「ふくの鳥」を開いて今年で10年めだ。新たな計画はすべてこれから始まる。

 

「お客様がリピートする要因はおいしいから。今ある商品をもっとおいしく提供できるよう、日々取り組んでいます」

 

 焼き鳥と酒、どちらも奥が深い。会社としての前進はもちろんのこと、おいしさをさらに究めて客を喜ばせてほしい。
(週刊FLASH 2017年8月15日号)

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