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藤井聡太が史上最年少名人に 年下相手にタイトル戦無敗の渡辺明が唯一圧倒的に負け越す「新七冠」の「異次元の強さ」

ライフ・マネー 投稿日:2023.06.03 18:55FLASH編集部

藤井聡太が史上最年少名人に 年下相手にタイトル戦無敗の渡辺明が唯一圧倒的に負け越す「新七冠」の「異次元の強さ」

第5局の会場「藤井荘」前で、指で七冠の「7」を示す藤井新名人(写真・共同通信)

 

 将棋史上最年少の新名人、そして新七冠が誕生した。

 

 渡辺明名人に藤井聡太六冠が挑戦する第81期名人戦七番勝負は、6月1日に閉幕。挑戦者の藤井が4勝1敗でシリーズを制し、将棋界最高峰の名人位に就いた。

 

「『名人』という言葉には、子どものころからあこがれの気持ちを抱いていたので、今回、獲得できたことについては、やっぱりすごく感慨深いものがあります」(藤井)

 

 

 谷川浩司十七世名人は1983年、21歳という空前の若さで名人位に就いた。現在20歳の藤井は今回、その最年少記録を更新した。

 

「今シリーズ、臨むうえで、そのことを意識していたわけではありませんけど、その谷川先生の記録というのは本当にすばらしいものと思っていたので、それを結果として更新することができたというのは、とてもうれしく思っています」(藤井)

 

 1996年、25歳だった羽生善治は、当時の七大タイトルをすべて制し、史上初めて七冠を達成した。現在は八大タイトル制となり、藤井はそのなかで史上2人めの七冠同時保持者となった。

 

「羽生先生の記録は、全冠制覇という点でやっぱり特別なものかなと思っていますので、自分としてはそこに並べたという意識ではないんですけれども。今回、名人を獲得することができたということは、とてもうれしく思っています」(藤井)

 

 藤井が偉大な記録を生み出すたびに、社会的なフィーバーが巻き起こる。一方で熱狂する周囲をよそに、当事者の藤井の言葉はどこまでも冷静で謙虚だ。

 

 あらためて、今期名人戦を振り返ってみよう。

 

 防衛、4連覇を目指す立場だった渡辺は、藤井が台頭するまで「現役最強」といわれていた。渡辺は2004年、まだ20歳の若さで森内俊之(現九段)から竜王位を獲得。以来、ずっとタイトルを保持し続け、無冠になったことがない。渡辺は羽生、森内、佐藤康光(現九段)など、年上の名棋士たちと熾烈な戦いを演じてきた一方、豊島将之九段や永瀬拓矢王座など、下から追いかけてきた年下の棋士たちには、まだタイトル戦で一度も敗退したことがない。それだけ強い渡辺が、わずかにただひとりだけ、圧倒的に負け越している棋士がいる。それが藤井だ。

 

 渡辺はこれまで藤井に棋聖、王将、棋王のタイトルを、順に奪われてきた。そして残された唯一の牙城、名人位もまた、藤井から挑戦を受けることになった。下馬評では藤井有利の声が圧倒的ななか、将棋界が新しい年度を迎える4月、名人戦七番勝負が開幕した。

 

 第1局は密度の濃い熱戦で、藤井が競り合いを制して勝利を収めた。

 

《えぐいよなあ》

 

 終局後、渡辺はそうぽつりとツイートした。藤井の強さを心底知らされている者の、いつわらざる実感だろう。

 

 第2局もハイレベルな攻防が繰り広げられた末に、最後は藤井が勝った。

 

 第3局、後手番の藤井は角交換をしない作戦を選んだ。現代の将棋界では久しく「角換わり」がメジャーな戦法で、藤井、渡辺ともに得意としてきた。しかし最近、おそろしく強くなったコンピュータ(AI)将棋同士の対戦では、角換わりは先手番が有利であると結論づけられてきた。そうした点がいくらかは影響しているのか、今期名人戦では、角換わりは一度も現れなかった。

 

 第3局は途中まで、藤井が会心の指し回しで優勢に。しかし藤井に攻め急ぎがあったか、渡辺が的確に対応して流れが変わる。最後は渡辺が絶妙の攻防手を放ち、逆転勝利を収めた。渡辺ファンはここで大いに溜飲を下げただろう。

 

 しかしその後はまた、藤井の強さがひときわ目立つ進行となった。第4局は、渡辺の攻めを藤井が的確に受け止め、69手の短手数で押し切った。

 

 藤井3勝1敗で迎えた第5局は5月31日、6月1日に長野県高山町でおこなわれた。途中までは、渡辺がややリードして進んでいたかに見えた。そこで藤井は2枚の角を順に使う勝負手を放つ。対して、渡辺に攻め急ぎがあったようで、逆転。最後は藤井らしい華麗な決め手が出て、渡辺玉を受けなしに追い込んだ。一呼吸をおいて、渡辺が頭を下げる。

 

「負けました」(渡辺)

 

「ありがとうございました」(藤井)

 

 藤井も一礼を返し、静かに名人位は交替した。

 

《今回もこのような結果になったのは残念というか、情けないというか、、、(特に第4局、第5局)》

 

 名人戦閉幕後、渡辺はツイートで敗戦の弁を述べた。渡辺は、ついに無冠の立場に追い込まれた。しかしそれは、渡辺が衰えたとか、精進を怠っていたとかというわけではない。ここ何年かのタイトル戦で、渡辺は藤井以外に敗退したことがない。つまりは、藤井がただ異次元に強すぎるというだけだろう。

 

 藤井聡太新名人が誕生した対局場の名は「緑霞山宿 藤井荘」だった。

 

「もちろんそれは偶然ではあるんですけれども。やっぱりもちろん自分としても、こちら藤井荘さんは縁を感じるところはありましたし。この場所で今回、名人を獲得することができたというのはとても、自分としてもすごく思い出になることだったかなというふうに思っています」(藤井)

 

 藤井新名人は八大タイトルのうち竜王、王位、叡王、棋王、王将、棋聖も保持し、七冠になった。残されたタイトルは、いよいよ王座ひとつだけ。永瀬王座への挑戦権を争うトーナメントは現在、進行中で、藤井はベスト8にまで進んでいる。藤井がこのまま勝ち進めば、秋には史上初の八冠チャレンジが実現する。

 

(文・相川清英)

( SmartFLASH )

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