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三菱地所と三井不動産がひそかに動き出した「街づくりアート戦略」世界のビジネスパーソンも熱視線

ライフ・マネー 投稿日:2023.06.25 11:00FLASH編集部

三菱地所と三井不動産がひそかに動き出した「街づくりアート戦略」世界のビジネスパーソンも熱視線

三菱一号館美術館(写真・AC)

 

アート」をキーワードに、住宅・不動産デベロッパーが動き始めています。これはたやすく想像していただけると思いますが、商業ビルのテナントとしてのギャラリーなどのアート施設の誘致、住宅購入者へのアート作品販売、もしくは仲介です。

 

三菱地所の場合

 

 

 このところ都心の新ビルの発表に「ギャラリーが入る」というリリースがたいへん多くなりました。それに先立つ2020年には三菱地所有楽町ビルにCADAN(コンテンポラリーアートギャラリーが加盟する非営利の業界団体)が本部を移し、ギャラリーができました。

 

 現在、日比谷ミッドタウン等に入っているイエローコーナーはフランスでは著名なチェーン店で、1万円台からフレーム入りで素敵なフォトを購入できるお店です。

 

 私が、広告写真の制作や販売を行う株式会社アマナでこの事業を担当し、現在はアップルストアが入っているスペースを三菱地所から半年ほどお借りしてテストマーケティングを実施したのは2016年でした。しかし、三菱地所がアートを街の要素として取り入れたのは、それよりもかなり遡ることがわかりました。

 

 今回、お話を聞いたのは、三菱地所株式会社プロジェクト開発部長の吉村友宏さんと、有楽町街づくり推進室副室長の有光頼幸さんです。

 

 大手町、丸の内、有楽町(通称「大丸有」)地区のまちづくりを約130年にわたって手掛けている同社が、この地で展開するアートと連携した取り組みについて、次々と話があがりました。

 

「アートアワードトーキョー丸の内」は2007年に、「藝大アーツイン丸の内」は2008年にスタートして回を重ね、最近ではアーティストの活動を街に呼び込む実証実験的な「有楽町アートアーバニズムYAU」等の新しい試みも始まっています。

 

 各セクションがそれぞれにアートの活動を行っていましたが、これらをベースにしながら現在の有楽町の活動につながっており、三菱地所は有楽町の再構築において「アート」を重要なテーマとして考えているそうです。

 

 今のところはブランディング的な意味合いが強いようですが、私が訪れるアート関係事業所では「三菱地所さんがお話を聞きにいらっしゃいましたよ」とよく耳にします。

 

 私が親しくさせていただいている同社の協創推進営業部長の平瀬豪宏さんは、時間さえあれば、私とアート関係者とのミーティングに同席し、現場の様子をしっかりとメモしています。さまざまなアートイベントをサポートし、アート業界出身者も採用し始めたようですから、この路線で日本をリードしていくのでしょう。

 

 そして、私は三菱地所が世界とつながっていくことを切に希望します。

 

 三菱地所の物件に入る大企業ビジネスパーソンに「国際的視点でアート作品を購入してアーティストを育て、作品を飾る」スタイルを提案し、その結果、「丸の内の企業各社のオフィスには、価値あると推測できるアートが飾ってある」ことが評判になると、世界のビジネスパーソンが、世界のMITSUBISHIと言い始めるようになります。

 

■三井不動産の場合

 

 三菱の拠点である丸の内に三菱一号館美術館と静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)があるように、三井グループの創業の地である日本橋の三井本館には、三井家が江戸時代から収集した素晴らしい美術品の数々を誇る三井記念美術館があります。三菱地所に比べるとアート関連事業のイメージが薄い印象もある三井不動産ですが、淡々と進んでいます。

 

 例えば、障がいのあるアーティストの作品で街全体を美術館にするというユニークなコンセプトの「アートパラ深川」を2020年の開催初年度からスポンサードしています。

 

 三井不動産株式会社開発企画部の吉山太朗さんによると、「アーティストのためにも一般と同様の流通に乗せるべき」と主催者に相談し、開催2回目からは作品の販売がスタートしたそうです。そして、吉山さんご自身も気に入った作品を購入されたそうです。

 

 2020年に竣工した渋谷のミヤシタパーク(MIYASHITA PARK)にはアートプラットフォームとしての新しいコンセプトを持ったギャラリーを誘致し、2022年5月には本拠地日本橋で、リアルとデジタルの場を活用したデジタルアートの展示と、一部の作品をNFT化して販売するプラットフォーム「クリエイター特区」を開設するなど、三井不動産においても着々とアートとの取り組みが進行しています。

 

「デベロッパーとしては世界の事例や街づくりを現地で見ることが何よりも重要です。パリフォトを視察した際は、その会場の素晴らしさや、グローバルな大企業のアートフェアへの関わり方など、初めて知ることばかりでした。2回行きましたが、2回目でようやく見えてくることもありました」(吉山さん)

 

 今日のアートブームに先駆けて、早い時期から海外・国内のアートフェスティバルやアートの街をご自分で視察されている吉山さんとは、パリフォトを含めいくつかの海外アートフェア視察をご一緒しましたが、海外を見ている人の視点はどこか違います。

 

「“次” をゲットするには、インターネットや本の情報だけでは駄目。デベロッパーは現地で見てなんぼ、行ってなんぼです」と語り、それを実行する行動力は企業人のお手本だと思います。

 

「三井不動産でも近年、アートに関する試みは少しずつ増えています。地道に継続してアンテナを張りながら、今後の街づくりに反映させていきます」(吉山さん)

 

 三菱地所と三井不動産ではアートへの取り組み方が全く異なりますが、10年後のそれぞれの街づくりとそのテナント、オフィスの様相、そして両社への世界からの評価がどう変わっていくかが楽しみです。

 

 

 以上、上坂真人氏の新刊『世界視点で読む 企業戦略とアート』(光文社新書)をもとに再構成しました。アートを事業にするメリットはどこにあるのか。世界標準のアート産業を日本に普及すべく活動する著者が、数字と事例を駆使して具体案を届けます。

 

●『世界視点で読む 企業戦略とアート』詳細はこちら

( SmartFLASH )

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