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奇跡の生命力で「99%助からない」状態から復活した男の野望

ライフ・マネー 投稿日:2017.09.21 11:00FLASH編集部

奇跡の生命力で「99%助からない」状態から復活した男の野望

写真:AFLO

 

 心肺停止状態になってから、人はどのくらい生きていられるのだろうか? 統計では10分経過すると生存率はほぼ0%とある。では、加藤秀幸さん(42)の場合はどういうことだったのか?

 

 11年前の11月の日曜の夕方、釣りが好きな加藤さんが乗っていた釣り船が鶴見川河口でクルーザーに衝突された。当て逃げ状態で釣り船の船長と友人が即死。加藤さんは心肺停止状態に陥った。難を逃れたもう一人の友人が船のエンジンを切ってくれた。それで助かった。

 

 その日は仲間たちと2隻の船に分かれて釣りを楽しんでいて、事故に気づいたもう1隻の船が助けに来てくれた。それに乗せられ船着場へ。そこから済生会神奈川県病院へ救急搬送された。

 

「心肺停止していた時間は50分から1時間。普通それだけ経過すると脳に血液が行かないので、助かっても植物状態になるとか、ひどい障害が残ることになります。

 

 意識を取り戻したのは5日めの昼。でもそれは母から聞いた話で、僕自身は釣りに行った記憶がないばかりか、事故の前後一カ月の記憶が今もありません。

 

 気がついたときは右半身全麻痺。右脳に外傷性脳挫傷を受け、脳みそが2センチ欠損していました。脳挫傷を受けると脳は逃げようと縮み、それが戻るときに左の中脳に出血して、神経を圧迫し右半身が麻痺しました。

 

 ただリハビリがよかったのか、今では麻痺より軽い感覚障害にまで回復しています。結局僕は病院を2度変えて4カ月以上入院、丸2年間は働けませんでした」

 

 加藤さんは八百屋の三代目だ。八百屋といっても小売店ではなく、学校、病院、居酒屋などに品物を納める納め屋である。

 

 八百屋の跡取りだが、大学は北里大学海洋生命科学部出身で魚の専門家だ。2017年の正月に放映されたテレビの特別番組『検定王』では魚検定の問題を監修し、協力者として名前も表示された。

 

 また、魚図鑑の監修などもおこなっている。学生時代はアルバイトで釣り専門の週刊紙に毎週コラムを書いていた。その関係で釣りの記者になるつもりだったが、空きがないために店長候補として大型の釣具店に入社した。

 

 そこでは新入社員の売り上げの記録を作るなど成績を残したが、2年後に祖母が亡くなり、働き手が足りなくなったため、実家の八百屋に戻った。

 

「2年間下積みをして、3年めから父に代わり社長になりました。実家はいちばんの得意先に計画倒産されて集金できなくなったぶんなど、借金8000万円弱を引きずっており、返済のために飛び込み営業をするなど、ほとんど寝ないで仕事をしました。

 

 それで売り上げを3倍強に伸ばし、借金も30歳のころには2000万円ぐらいに減り、あと1、2年で返せると思っていました。当時、僕は月曜から土曜までバリバリ働いて、日曜日は釣りを楽しむという生活を送っていました」

 

 そして、運命の日曜日を迎える。退院してから3カ月後に診断書をもらいに病院へ行くと、幽霊でも見たかのように主治医に驚かれた。

 

「どうやって来たんだ!?」

「電車と足で来ました」

 

 それから2週間後に主治医から電話が来て、「加藤君のケースを学会で発表したい。30分以上心肺停止状態でここまで回復した例はないから」。

 

 そもそも99%助からないと宣告された状態から生還できたのはなぜか?

 

 加藤さんが子供のころから水泳など各種のスポーツをしていて頑健だったこと、体が大きくて肺活量が6000cc以上あることが関係した。

 

 肺は停止していても、最後に吸い込んだ6000ccの空気が溜められていて、酸素がなんらかの方法で脳に運ばれたのではないかと医者は説明する。

 

「実家では僕の代わりに弟が仕事をしていましたが、2年たって借金が増えているし、八百屋に戻ろうかと思い親に話しました。すると父親は『以前とは経済環境が違い、飛び込み営業で仕事が取れるようなことはないし厳しい』。

 

 母親は『事故の前と後で性格が変わってしまい、商売に向かないぐらい優しくなった。体力的にも八百屋をやるのは無理だから、できる仕事を探しなさい』」

 

 仕事探しの日々となった。小さな居酒屋をはじめいくつもの仕事をしたが、結局これはというものを見つけられなかった。今は知り合いと一緒にベトナム人の技能実習生や人材の紹介をおこなっている。先月はベトナムへ視察にも行った。その傍ら「ぐるなび」の記者や釣りのガイドなどもしている。

 

「将来はやはり、釣り体験の教育や釣りのコーディネート、それに野菜ソムリエの資格もあるので、食育ができたらいい。30代は失われた10年間で、僕自身はまだ30代のつもり。その気持ちで成功を収めたいと思っています」

 

 医学の常識を覆す生命力を見せた加藤さんが、40代での成功がかなうようにエールを送りたい。
(週刊FLASH 2017年10月3日号)

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