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“令和の米騒動”なんてどこ吹く風「どっさり山積み」香港スーパーに日本米が並ぶ理由を現地商社マンが解説

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2024.09.03 06:00 最終更新日:2024.09.03 06:00

“令和の米騒動”なんてどこ吹く風「どっさり山積み」香港スーパーに日本米が並ぶ理由を現地商社マンが解説

大量の米が売られている香港の高級スーパー『city super』

 

 全国の小売店で、日本人の主食であるコメの品薄状態が続いている。政府備蓄米を放出するよう要望が高まる一方だが、坂本哲志農林水産大臣は8月27日の記者会見で「9月にかけて新米が出回るので、順次、品薄は解消する」と述べ、放出に慎重な姿勢を崩していない。

 

「岸田首相が食糧安定供給を議論する会合で、コメの流通状況を改善するよう坂本農水相に要請したものの、米価高騰は避けられない見通しです。ただでさえ相次ぐ食品値上げラッシュのさなかで、家計や飲食店への打撃は計り知れず、コメ政策の破綻を指摘する声もあります」(政治担当記者)

 

「令和の米騒動」と揶揄されるほど“米びつの底”が見えそうなわが国だが、アジアに目を移すと、意外にも日本米の在庫は十分ある、というから驚きだ。たとえば、東京から飛行機で約4時間の香港――。現地在住ジャーナリスト・角脇久志氏が報告する。

 

 

「8月22日の香港Yahoo!ニュースでは、『日本のコメ在庫が歴史的最低値に落ち込み、パニックが起きる! ネットユーザーらはスーパーでコメ製品が品薄になっていると苦情を寄せるも、農林水産省は3つの理由を挙げて消費者に心配しないように呼びかけている』というタイトルで報道されるなど、日本のコメ問題には香港市民も関心を寄せています。しかし、香港の街なかのスーパーなどには、日本米の袋がどっさり山積みになっており、品薄どころか、あり余っている状況なんです。これは飲食店でも同様で、日本発のおむすび専門店『華御結(はなむすび)』でスタッフに取材したところ、『とくにおむすびの材料用のコメや、店頭販売用の日本米が不足しているという話は聞いていない』とのことでした。

 

 また、8月11日に香港1号店をオープンし、1時間待ちの行列ができるほど人気となっている牛丼の『松屋』。こちらは秋田県産のあきたこまちを使用しているのをセールスポイントにしていますが、『日本米の不足でメニューが提供できない』みたいな話は出ていません。私自身、日本料理店へときどき行きますが、日本米の不足でメニューに影響が出ている話は聞いたことがないですね」

 

 もともと、香港には日本料理店が多く進出しており、和食を好む香港人も多い。平均レベル以上のお店では、日本米を使用していることを売りにする店が多いが、品薄の影響はどこもほぼ皆無だというのだ。

 

「中国産のコメやタイ米と比べ、割高な日本米ですが、香港では人気が高く、ブランド米として認知され、幅広い食品店で販売されています。香港政府工業貿易署が発表している最新のコメの輸入統計では、2023年度の、香港への日本米の輸入量は1万1200tで、香港が輸入する米の4.4%。2024年度は、7月31日までの統計ですでに7500tと、輸入量の5.0%に達しています。これは2023年度と変わらずか、むしろ、やや微増のペースです。ちなみに、2014年が1700t……輸入量における0.5%なので、日本米の売上は、ここ10年でじつに6倍以上になっているんです」(角脇氏)

 

 では、金額が割高なのかというと、そんなこともないという。

 

「日系でいうと、高級スーパー『city super』には日本米専門コーナーがあり、日本全国30種類以上の日本米が販売され、品ぞろえではナンバーワン。価格はブランド米の南魚沼産コシヒカリが2kgで172香港ドル(約3200円)、北海道のゆめぴりかが2kgで160香港ドル(約3000円)、ひとめぼれが2kg155香港ドル(約2900円)などで、高級店なので他店に比べて高めです。しかし、日本でも有名なディスカウントショップ『ドン・キホーテ』では、北海道の農家より仕入れ、香港の自社工場で精米したななつぼしを『安田精米』というブランドで専用コーナーを作り、大々的に宣伝・販売しています。ほかの日系スーパーでは2kg100香港ドル(約1900円)以上することが多い、ななつぼしですが、2kg69香港ドル(約1300円)と、割安で販売して人気です。

 

 また、日本人社長が香港で120店舗展開するおむすびチェーン店『華御結』では、福井県産のコシヒカリが2kg2パックで150香港ドル(約2800円)。日本米としてはかなり割安です。ほかに香港ローカルで、中国系大手商社が運営する、日本商品をメインに取り扱うショップでは、独自ルートで仕入れた三三〇(直播米)という、ゆめぴりかの系統の日本米を販売しており、価格は29.9香港ドル(約560円)。ここも、ほかの日系スーパーに比べて、かなり安いといえます」(角脇氏)

 

 日本では品薄の日本米が、香港で過不足なく流通しているのはなぜなのだろうか。ある香港の商社マンが解説する。

 

「コメに関しては、作付け前に多くの量が、JAやコメの卸売業者など、引き取り先や売り先が決まっているんです。その売り先がどれくらい買うかに合わせて作付けすることが多いので、大きく余剰分は出ないということです。香港など海外の取引先であれば、多くは半年から1年前に売買取り引きを結んで輸入をするため、直近1~2カ月で、日本がコメ不足になったからといって、急に輸入量が減らされるということはあまり考えられないんです。急に流通量を増やすことはできないが、必要な分は前もって確保されているので、香港の売り場には日本米が山積みというわけです」

 

 海外旅行のお土産に、こっそり日本米を買って帰る――。そんな“逆輸入”が横行することにならなければいいが……。

( SmartFLASH )

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