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日本初ミシュラン一つ星ラーメン店「蔦」の秘密は3種類の出汁

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2017.12.26 11:00 最終更新日:2018.03.09 11:04

日本初ミシュラン一つ星ラーメン店「蔦」の秘密は3種類の出汁

 

 それは、グルメ界を揺るがす大ニュースだった。2017年12月に発売された『ミシュランガイド東京2016』において、東京・巣鴨のラーメン専門店「Japanese Soba Noodles 蔦(つた)」が、ラーメン史上初の一つ星を獲得したのだ。

 

 2012年、東京・巣鴨の地で産声を上げた「蔦」を端的に表現すれば、「日本でも有数の個性派店主が腕を振るう、最もハイレベルな店」。この一言に尽きる。

 

 ラーメン愛好家として身も蓋もない発言かもしれないが、料理の味の良し悪しを判断するに当たっては、明確な物差しは存在しない。人それぞれ味の好みがあるからだ。

 

 だが、「蔦」のラーメンは、個人の好みの範ちゅうを超えた次元にある。仮に、これまでどんなラーメンを食べても満足したことがない、味に厳しいグルメ評論家がいたとしても関係ない。そんな評論家をもってしても、強引に「美味い!」と言わせてしまうのが、大西店主のラーメンだ。

 

「創っているラーメンが自分にとって少しでも満足できないものになれば、ためらうことなく直ちに味を見直します」と大西氏は言う。

 

 オープン当初から同店の代表メニューは「醤油Soba」(醤油ラーメン)であるが、味を何回変えたのかを、全く覚えていないという。

 

 大西氏が自らに課している唯一の決めごとは、新しい素材を試すときは、その素材のみを使って出汁を採ってみることだそうだ。

 

「気になる食材が見つかれば、あれこれ考えずにまずは取り寄せてみるんです。で、その素材だけを使って出汁を採ってみる。そのときに、『この素材は自分と相性が良い』と感じることができれば本格的に採用する。そうでなければ、いくら良さそうな素材であっても躊躇なく切り捨てます」

 

 作り手が自分自身である以上、自分と相性が良くなければ、結局、頭の中で思い浮かんだ味のイメージと食い違ってしまうからだという。

 

「実際に手を動かす前に、創ろうとするラーメンの味をイメージするんです。次に、その味を表現するために、どのような素材がどの程度必要なのかを考えます。相性の良い素材とめぐり逢うことができれば、ほぼ確実に、その素材でイメージどおりの味を創り出すことができます。

 

 裏を返せば、ある素材を用いて想像を超える味が出せたとしても、それが自分のイメージを凌駕しているのであれば、今の自分には使いこなせていないということ。そういう素材を使うことはありません」

 

 素人考えだと、「想像以上の味が出せるのであれば、その素材を使ったら良いじゃないか」となるのだが、そうではないらしい。どうやら大西氏は、常に一定水準以上の味を提供できるようでなければ、料理人として失格という考えを持っているようだ。

 

 そして、2017年6月に完成したのが、店主が「全く新しい味だから『新味』」と称する1杯だ。

 

 醤油ダレは、和歌山県の2年熟成生揚げ醤油をメインに、長野県産の丸大豆本醸造濃口醤油と白醤油をブレンドした醤油に、ムール貝・牛肉・ポルチーニ茸・乾物・野菜の出汁を合わせたもの。

 

 醤油ダレにはあえて雑味を加えることで、ラーメンにとって必要不可欠な「適度な品の悪さ」を演出している。スープは、3種類の出汁をそれぞれ別の寸胴で作り、それらの出汁を、提供する直前に丼で合わせるトリプルスープ。

 

 具体的には、青森シャモロック・熊本天草大王・名古屋コーチンの丸鶏を使用した出汁、大量のアサリから採った出汁、昆布・乾物などから採った出汁の3種類だ。

 

 そして、「蔦」を一躍有名にしたのが、黒トリュフオイルの使用。

 

「これまでは相当な分量のトリュフオイルを使っていましたが、『新味』への変更を機に、大幅に減量しました。またそのトリュフオイルを、単なる香り付けではなく、うま味の一部としてスープに溶け込ませることで、シンプルなおいしさを目指しました。また、オイルを減らした代わりとして、新たに黒トリュフパウダーを採り入れてみたのです」

 

「蔦」のラーメンの代名詞とも言われているトリュフの使い方でさえ、状況次第でこともなげに変える。この柔軟な発想力と、それを確実に具現化できる圧倒的な技量こそが、「蔦」を日本一たらしめる所以なのだ。


 以上、田中一明氏の新刊『ラーメン超進化論 「ミシュラン一つ星」への道』(光文社新書)より引用しました。

 

日本に35000店あると言われるラーメン店でも、特に素晴らしい一杯を作る店がある。そんな日本最高峰の作り手たちに、「ラーメン官僚」が迫ります。

 

●『ラーメン超進化論』詳細はこちら

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