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昼食代が出せずデイサービスをやめた人も…介護者を追い詰める「介護貧困」毎月の費用は平均8万3000円の暗澹

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記事投稿日:2025.04.19 11:00 最終更新日:2025.04.19 11:00
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
昼食代が出せずデイサービスをやめた人も…介護者を追い詰める「介護貧困」毎月の費用は平均8万3000円の暗澹

(写真・AC)

 

 介護保険制度に、財政面での限界が迫っているという多くの指摘がある。

 

 逆三角形型の人口ピラミッドとなっていく今後の日本で、要介護の高齢者が増大することは明らかである。年金と同じく、その支え手となる生産年齢人口の比率は減少している。これ以上の介護保険料の引き上げや税金による負担が厳しいなら、給付を減らすしかない。

 

 すでにいくつかの自治体で財政支出を抑えるために、要介護度や要支援度を、実際よりも低く(すなわち軽く)認定するケースが見られるという(全日本民医連・介護1000事例調査報告)。そうなってくると、状態に見合った充分なケアが受けられない。

 

 たとえ低めの介護認定がなされなかったとしても、自己負担金が払えない場合もある。介護保険が適用されても、利用料の少なくとも1割は自己負担となる。1割と言っても、毎月必要なのだから軽い負担ではない。

 

 

 また施設における食事代などは介護保険適用外と改定されたので、全額自己負担となる。たとえば、昼食が提供されるデイサービスを使っていたが、負担金や昼食代が捻出できず、やむなく利用をやめて自宅で家族が看ているといったケースもある。

 

 またデイサービス施設が満室であったり、介護スタッフ不足で、受け入れてもらえないこともある。

 

 特別養護老人ホームに入るには原則として要介護3以上の認定が必要であるし、たとえ要介護3以上であっても、胃瘻(いろう)や経管栄養といった日常的医療行為が必要な場合は、入居が断られてしまう要介護者もいる。介護保険制度は、けっして網羅的とは言えないのだ。

 

 老人ホームには入れず、デイサービスなども厳しいとなると、24時間自宅介護をするしか方策はない。介護のために仕事を辞めたなら収入はなくなるが、介護用品購入などの支出は増える。そしてそのあとは、介護貧困が待っている。

 

 自宅で転倒しないように手すりの設置や段差の解消などの住居改修をするときは、介護保険による補助は、要介護度に関係なく上限20万円までで、そのうち2万円は自己負担となる(所得によっては4万~6万円が自己負担となることもある)。

 

 玄関の段差をなくし、廊下に手すりを付けて、風呂場に転倒防止マットを敷き、介護入浴用の椅子を買えば、それでたいていは20万円を超えてしまう。扉を引き戸にしたり、便器を洋式に変えることまでは、カバーできない。介護ベッドをレンタルした場合も自己負担がある。

 

 紙オムツ、尿取りパッド、失禁パンツ、流動食、口腔ケアなどのさまざまな介護支出もボディブローのように効いてくる。

 

 公益財団法人・生命保険文化センターが行なった介護費用に関する実態調査(令和3年)によれば、住宅改修や車椅子購入などの一時的な費用の合計は平均で74万円、月々の介護費用は平均で8万3000円の支出となっている。そして介護期間の平均は、5年1ヵ月に及んでいる。

 

 生きていくのに必要なのは介護費用だけではない。衣食住から水道光熱費や通信費などさまざまな出費がかかる。要介護者であっても、月々の介護保険料は免除にはならず、支払わなくてはいけない。

 

 そういった金額を、親の貯金や年金ですべて賄えるとは限らない。しかも介護状態が重くなるにつれて費用はだんだんと増えていき、いつまで必要なのかもわからないのだ。

 

■介護を担う者は追い詰められる

 

 こうして介護を担う者は追い詰められる。経済面だけでなく、時間的にも精神的にも大きな負担を背負い込み、疲労が蓄積する。しかし休みは取れない。あげくのはては、介護者が自殺をするといった状態に陥ってしまう。

 

 歌手・俳優として活躍した清水由貴子さんは父親の墓地で自殺をした。「ご迷惑をかけてすみません」の書き置きがあり、その傍らには車椅子に乗った認知症の母親が残されていた(2009年5月4日、毎日・産経新聞ほか)。清水さんは有名人なので各紙が大きく取り上げたが、一般人だとスペースも小さい。介護で追い込まれて自殺する事例は珍しくないのだ。

 

 報道によると、独身の清水さんは芸能界を引退して実母をシングル介護していたということである。妹さんがいるということだが、そのサポートはなかったのだろうか。

 

 厚生労働省研究班の調査によると家族介護者の23%が介護うつ状態であるということだ。さらには介護殺人や介護心中という悲劇もある。介護保険がスタートしてから10年の間に介護殺人や介護心中に至った事案が少なくとも400件を超えており、埋もれている事例もあって、「氷山の一角」という指摘もある(2009年11月20日、中日新聞)。

 

 介護保険制度ができたから、介護問題は解決した、とは絶対に言えないのだ。

 

 

 以上、姉小路祐氏の新刊『介護と相続、これでもめる! 不公平・逃げ得を防ぐには』(光文社新書)をもとに再構成しました。超高齢社会が進むわが国で、介護・相続トラブルを防ぐために必要なこととは?

 

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