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日本が経済停滞から脱却する3条件…「1人あたりGDP」世界トップ10の国々から学ぶ成長のルールとは?

1990年代半ばの日本は、1人あたりGDPで世界トップ3の一角を占め、アメリカやドイツよりも高い水準を誇っていた。しかし、その後の30年に及ぶ経済停滞の間に、日本は多くの国に追い抜かれた。
2022年にはイタリアに抜かれて主要7カ国(G7)最下位となり、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中でも21位となった。アジアの近隣諸国と比べても、いまやシンガポールの1人あたりGDPは日本の2.5倍近くあり、韓国や台湾も日本の水準に追い付いている。もはや日本は世界の超富裕国でもアジア随一の先進国でもない。
2023年の1人あたりGDPの世界ランキングを見ると、上位10カ国・地域のうち、アメリカを除く9カ国・地域が人口1000万人未満だ。これらの中には、カタールのように豊富な天然資源の輸出益で潤う国もあるが、スイスやシンガポールなど、むしろ資源も人口も限られながら、高い生活水準を実現している国が目立つ。
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なぜ、人も資源も限られた小国が、1人あたりGDP世界トップ10になれたのだろうか。
たとえば、かつて鉄鋼産業中心だったルクセンブルク(1人あたりGDP世界1位)は、産業の高度化を目指す政府の戦略の下、周辺国から高度人材を積極的に受け入れ、世界屈指の金融センターへと変貌を遂げた。
アイルランド(1人あたりGDP世界2位)は、法人税率の低さのみならず、その効率的なビジネス環境によって、特に製薬業とデータ産業で外国企業を惹きつけ、経済を大きく発展させることに成功している。
スイス(1人あたりGDP世界3位)は、国内で高度人材の育成に力を入れるとともに、海外からも優秀な人材を集め、精密機器、金融、製薬などの高付加価値産業の発展で、高い生活水準を実現している。
シンガポール(1人あたりGDP世界5位)は、インフラ、テクノロジー、教育に多額の投資を行うことで、世界の物流、金融、情報のハブになり、アジアにおいて日本をはるかに上回る1人あたりGDPを達成するに至った。
アイスランド(1人あたりGDP世界6位)は、観光業や漁業を中心とした経済から、その自然資本と人的資本を活かして、国としての収入源の多様化すなわち特定産業への依存度軽減を図っている。また、この国の豊富な水力や地熱は、クリーンなエネルギーを求める外国投資を惹きつける強みとなりつつある。
デンマーク(1人あたりGDP世界10位)は、柔軟な労働市場と高い教育水準によって、労働生産性と付加価値を高めている。GDPだけでなく、ワーク・ライフ・バランスが重視される文化で、国民の幸福度が高いことも特筆すべき点である。
では、日本は、いかにすれば経済停滞から脱却し、再び世界トップクラスの生活水準を実現できるようになるのか。今後の日本が経済成長していくには、企業の挑戦や経済の新陳代謝を促し、投資や労働力をより付加価値の高い分野へ誘導していくことで、人口減少の影響を上回る生産性の向上を実現していくしかない。
この点、上記の国々は小国で、それぞれに程度や中身の違いはあれど、
(1)成長志向の強い政府が、明確な産業戦略で企業の予見可能性(将来の見通し)を高めて挑戦を引き出しつつ、
(2)高度人材の育成やリスキリングに力を入れて高付加価値分野への労働移動を促し、
(3)国内の企業や人材との競争をいとわず外国から投資や優秀な人材を積極的に受け入れて、経済の新陳代謝を活発にしてきた
という点に共通の特徴を見出しうる。こうした特徴こそ、人口や資源の限られた小国が1人あたりGDP世界トップ10を実現しえた秘訣といえよう。
もちろん、これだけを実現すれば、日本の1人あたりGDPが必ず高まるという保証はない。だが、上述した3つの示唆は、日本が再び豊かになるために必要な条件である。
もちろん、先にあげた国々は、様々な課題に直面している。
たとえば、政府が成長ばかりを追い求めて、弱者を切り捨てていると批判された国がある。外国人材の受け入れが、社会で軋轢や分断を生みつつある国もある。データセンターなど消費電力の大きな産業の誘致に力を入れた結果、電力不足が懸念される国もある。
また、どの国も、国内外の環境変化に応じて産業構造を絶え間なく変化していかなくては、経済成長を続けられそうにない。何より、外資企業や越境労働者を積極的に受け入れて見かけの上で1人あたりGDPが高くなっても、海外にお金が流出するばかりでは自国民の所得向上には必ずしも結び付かない。
だが、こうした課題への対処の必要性も含めて、小国から学ぶところは多いのだ。
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以上、関山健氏と鹿島平和研究所の共著『「稼ぐ小国」の戦略 世界で沈む日本が成功した6つの国に学べること』(光文社新書)をもとに再構成しました。世界トップの生産性と競争力を築いた国々から、政策・教育・ビジネス等の戦略を学びます。
●『「稼ぐ小国」の戦略』詳細はこちら