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【アイスランド「オーロラ」撮影記】北の空を眺めて6時間、突然、空が明るくなって「天」が割れた!

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記事投稿日:2025.07.19 11:00 最終更新日:2025.07.19 11:00
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
【アイスランド「オーロラ」撮影記】北の空を眺めて6時間、突然、空が明るくなって「天」が割れた!

オーロラを求め、地図を片手に撮影によさそうなポイントを探す

 

 皆さんはオーロラ発生のメカニズムを知っているだろうか? すごく簡単に説明すると、オーロラとは太陽から発生した太陽風が地球の大気中にある酸素原子や窒素原子と衝突した時に発光して起こる現象で、太陽の活動が活発になればなるほど規模が大きくなったり、広い範囲で観測できるらしい。

 

 まぁ難しい話は置いといて、実は太陽の活動は11年周期で大きくなるといわれており、2024年から2025年がその最大の周期にあたる。2024年4月に日本各地でオーロラが観測されたことは記憶に新しく、この時はなんと100年以上ぶりにハワイでもオーロラが観測された。そのことからも、いかにこの周期が強力なのか分かるだろう。

 

 

 オーロラを観測するにはいくつか条件がある。1つ目はもちろんオーロラが発生していること。2つ目は晴れていること。オーロラは高度100キロ以上、雲よりも遥か上空で発生するため、曇っているとどうしても見ることはできない。そして、3つ目は暗いこと。星と同じように暗ければ暗いほどオーロラの光をはっきりと目視することができる。

 

 僕がアイスランド訪問を2月に決めたのも、この時期は日照時間が1日のうちたった6時間程度しかないということも理由の一つだった。

 

 オーロラ指数というものを聞いたことがあるだろうか? 地磁気擾乱(じようらん)の活動度を10段階で表した指数のことで、簡単にいうとこれが大きければ大きいほど強力なオーロラを見ることができる。0から9までの10段階の指数で測られるのだが、アイスランドに来てもう10日以上、ずっと0か1しかなかった。もちろんそんな数値ではオーロラは出現しない、もしくは見られる可能性はほとんどない、というレベルだ。

 

 夜通しオーロラを探し、明け方に就寝、昼前に起床するとまずこのオーロラ指数をチェックするのが習慣になっていた。その日もいつものようにスマホを開き確認する。0か1ばかりの日が続き、もはやただの惰性でしかなくなっていた。

 

 が、その日画面に現れた数字はなんと5。思わず「うお!」と声が出た。しかも天気は快晴。帰国まであと2日。恐らく今晩が最大であり、最後のチャンスになるだろう。急いで防寒具を着込み、ロケハンの最終確認に出かけた。

 

 ロケハンとは写真業界ではよく使われる用語だが、「ロケーション・ハンティング」のことで、撮影する場所に実際に出向き、下見や下調べをすることをいう。僕は普段、案件の撮影などどうしても必要な時以外はロケハンをしない。

 

 風景写真を撮る人にこの話をするとよく驚かれるのだが、基本的に旅をしながら(常に移動をしながら)撮影をするので、〇〇を見たいなぁという考えが微かにあるくらいで、一箇所に留まって撮影をする、ということは今までほとんどしてこなかった。

 

 もう一つ言うと、ヒマラヤのように一箇所に留まっているだけで死が近づいてくる危険地帯で撮影することも多く、そもそもロケハンなどできるはずなどなかった。ただ、オーロラをきちんと記録するためには、どうしてもロケハンが必要だった。

 

 オーロラが出現する場所はもちろん毎日変わっていくが、オーロラベルトと呼ばれる出現率の高いエリアが地球上には存在する。それは北緯65度から80度付近のことで、北極圏を中心にカナダやアラスカ、北欧なんかもこのエリアに入っている。

 

 そして、アイスランドは国まるごとオーロラベルトにすっぽり入っており、東西南北どの方角にオーロラが出てもおかしくない国だった。ゆえに360度空が開けた場所でカメラを構えていれば問題ないが、その時、僕は人気(ひとけ)のない山中でオーロラを探していたので、近くにそんな場所は見つからなかった。

 

 もし南にオーロラが出た時、南の空が開けてない場所にいたら当然見ることは困難になる。そのため、昼間のうちにオーロラが南の空に出たらここ、北の空に出たらここに行くという目星をある程度は決めておく必要があった。

 

 簡単な夕食をとり、日が暮れる前に出発した。湖は風もなく、湖面に黄昏(たそがれ)時の色が映り込んでいる。もちろん、まだどの方角に出るかは分からない。オーロラは英語でノーザンライツ、北の光と言うし、北に行くか。僕はヤマカンで、まずは北の空が開けて見えるその美しい湖畔で待つことにした。

 

 午後11時。穏やかな夜だった。新月が終わったばかりで、星だけが輝いている。風もなく、シンと無音の音さえ聞こえてきそうなほど、静けさに包まれていた。

 

 北の空を眺めはじめてもう6時間が過ぎていたが、オーロラが現れる様子は全くない。だが、午前0時、突然、北の空が明るくなりはじめた。

 

 最初は薄い雲のようにも見えた微かな光は次第にその光量を増していき、あっという間に空を明るく染め、その勢いのまま北の空から一気に僕の頭上までやってきた。次第に夜空には緑や紫の光も現れ、カーテンのようにうねうねと動きながら夜を覆っていく。

 

 真っ暗な夜空に急激にオーロラが広がっていき、その名の通り、空が破れたように見えることから「ブレークアップ」と呼ばれる現象が上空で繰り広げられていた。

 

 そのメカニズムはいまだに解明されておらず、どのように起きているのかはっきりは分かっていないことがその神秘性をより高めていた。

 

 かのアリストテレスはオーロラを「天の割れ目」と表現しており、もしかしたらこんなオーロラを彼も見たのかもしれない。オーロラはイヌイットの言い伝えによると、魂が天へと昇る時に現れるとされ、また中国では龍だと思われていた。恐怖なのか好奇心なのかという違いはあるにせよ、きっと想像もできない風景と出会った時、人の心が動くというのは古今東西普遍のことなのだろう。

 

 そんな光のショーも数分もすると、まるで幻だったかのように跡形もなく消えてしまった。だが、それは確実にあった。オーロラが持ついくつかの伝説と同じように、僕がこの世界からいなくなったあとも、写真を通じて今日出会った奇跡のような夜を紡いでいけたらいいな、再び訪れた静かな夜の下、ひとりそう祈っていた。

 

 

 以上、上田優紀氏の新刊『七大陸を往く 心を震わす風景を探して』(光文社新書)をもとに再構成しました。世界85カ国を回り、数々の絶景をカメラに収めてきたネイチャーフォトグラファーが、忘れられない旅の景色を振り返ります。

 

●『七大陸を往く』詳細はこちら

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