ライフ・マネー
この「激レア雲」見たことある? 片岡信和、荒木健太郎ら「気象予報士&学者」4名が撮った自慢の1枚

荒木健太郎の「自慢の1枚」【反薄明光線】(『すごすぎる天気の図鑑』荒木健太郎著、KADOKAWAより)
仕事に疲れ、ふと見上げて思う「夏休みの自由研究で調べたのは、いつだったっけ……」。記録的な猛暑の今夏、石原良純氏、片岡信和氏、菊池真以氏ら人気気象予報士が撮った “推し雲” の写真を見せてもらい、真夏の空の楽しみ方を教わった。アニメ映画『天気の子』の気象監修も務めた「雲博士」荒木健太郎氏の “推し雲” &スペシャル解説つき!
■【石原良純の「自慢の1枚」】正面から撮った「かなとこ雲」経過観察してみたら……
「この暑さは経験したことがない、想像を絶する気象。もはや、SFの世界ですね」
と、石原良純はギラギラの太陽にほえてみせる。子供のころ、逗子海岸に浮かぶ夏雲を見て、気象に関心を持つようになった。
「夏らしい雲として僕が選んだのは『かなとこ雲』です。入道雲が成層圏の下まで達してそれ以上成長できなくなり、上部が真っ平らになる。これを正面から撮った写真は珍しいでしょ? 雷雨をもたらす『多毛雲』だから、これだけ巨大化したらひと雨来るかなと経過を追ったんだけど、やがて崩れちゃいました」
雲の写真を眺め、「昔ながらの夕立がなくなった」と嘆く。
「ポタッとまず雨粒が落ちてくる。次いでザーッと降り出す。音だけでも楽しく感じられたのに、最近はゲリラ豪雨に取って代わられてしまったよね……」
この日は快晴だったが、不安気に空を見遣った。
【関連記事:100万部突破・映画化の漫画『私が見た未来』で“予言”された「7月5日大災害」当日近づくなか気象庁長官が“異例の言及”】
いしはらよしずみ
1997年に気象予報士の資格を取得し、『FNNスーパーニュース』(フジテレビ系)で2001〜2013年に気象情報を担当。現在もMCやコメンテーターとして気象解説をおこなう
■【片岡信和の「自慢の1枚」】「放射状積雲」を見て思う……人生も雲も、上昇気流だけじゃない
ストレッチやピアノ弾き語りを気象予報に持ち込み、新風を吹かせる片岡信和。その “自慢の1枚” の筆頭は、青空に低く棚引く放射状積雲だ。
「積雲が連なっているだけなんですが、雲塊が平行に並び、角度によってこう見えます。雲は、海や川などの水面から蒸発した水蒸気が、上空で冷やされて水滴や氷の粒となり、それらが集まってできたもの。大気の状態が安定しており、積雲は背高く発達することなく、雨の心配もありません。仲よく平和に並んでいて微笑ましいです」
「雲は人と似ている」が持論。
「温かい心の持ち主だって、上昇志向を持つうちに、冷たい視線にふれることもある。そこで自分の限界を知り、涙の雨が降るのかもしれません(笑)。次の雲も人間的ですよ」
と挙げたのが乳房雲。
「雲の中で起きた下降気流と、地面付近で発生した上昇気流がぶつかり合い、空気が乱れてこのような形状になります。僕には、他人と意見が合わず衝突してしまい、一触即発な空気に見えます……え、見えないですか?(笑)」
実際に、この雲を見かけたら要注意。雷雨や突風がもたらされること必定だ。そして、次にすすめる雲は環水平アーク。
「夏の高い太陽の下でよく出現します。氷の粒でできた薄雲に光が屈折し、虹のように見えるんです。写真では低い位置にあるように見えますが、この雲は意外と高いところにあるんです。太陽光が差し込みやすく、屈折・散乱することで、ばっちりプリズムの役割を果たしているんです」
かたおかしんわ
スーパー戦隊シリーズでデビュー。気象予報士試験に合格後は、『有働Times』『羽鳥慎一モーニングショー』(ともにテレビ朝日系)に出演中
■【菊池真以の「自慢の1枚」】雲を追って山へ海へ! 富士山五合目では積雲が足元に
菊池真以の趣味は写真撮影で、休日には海や山へ雲シューティングに出かける。
「『白虹(はっこう)』を撮ったのは大洗海岸。霧が海に広がった瞬間でした。太陽の光が雨に反射・屈折すると七色の虹になりますが、白虹は霧にできるんです。霧の粒はとても細かいため、光が色に分かれず白く見える。朝や夕方に霧が出ていると、稀に現われます」
続いて彼女が挙げた “レア雲” は、「ゆきあいの空」だ。
「気象用語ではなく俳句の季語で、夏から秋へ移るころの空模様のことを表わしています。これは富士山五合目で撮った写真で、下には夏のわた雲が、上には秋のうろこ雲や、すじ雲が重なっていました」
最後は、「ゲリラ雷雨」をもたらす積乱雲。
「美ヶ原高原で撮影しました。真ん中は滝のような雨が降っているのに、奥は晴れたまま。局地的であることが、一目でわかります」
きくちまい
これまで『ニュース7』(NHK)などに出演してきたほか、著書に『ときめく雲図鑑』(山と溪谷社)など。雲の撮影がライフワーク
■【荒木健太郎の「自慢の1枚」】光と影の筋が……第一人者が推すカッコいい雲
気象庁気象研究所の荒木健太郎氏は、「雲研究」の第一人者。今回、気象予報士らの1枚を見てもらった。「空を眺めるのが楽しくて仕方がない」と言う石原の写真はーー。
「雲の成長を見届けようとする姿勢が、石原さんらしいですね。『かなとこ雲』をじっくり捉えています。2枚めをよく見ると、上部にベールのような “頭巾雲” も見られます」
片岡は、整然と並ぶ積雲を、独特の言葉で表現した。
「 “クラウドストリート” ともいい、晴れて風が吹いているときに発生し、関東でもよく見られますが、奥行きある構図にこだわりが見えますね」
菊池が富士山で撮った「ゆきあいの空」はどうか。
「普段は地上から見上げる積雲が、眼下に広がる風景は圧巻。積雲の底が平らになっているのも見えていて、山だからこそ撮れるいい写真ですね」
荒木氏が推す夏の雲は?
「積乱雲は発達できる限界の高さに達すると平らになるのですが、それを突き抜けて盛り上がった “オーバーシュート” です。それから “天割れ” といわれる現象。正式名は薄明光線で、日没近くに太陽が雲の後ろに隠れて、光と影の筋が空に放射状に広がったものです。反薄明光線は、その筋が東の空まで伸び、光と影が一点に集まって見えます」
夏ならではの空の演出なのだ。
荒木健太郎
SNS総フォロワー数50万人超の人気研究者。新海誠監督のアニメ映画『天気の子』の気象監修も。『すごすぎる天気の図鑑』シリーズ(KADOKAWA)など著書多数
取材/文・鈴木隆祐