日本的雇用の重要な特徴として、新卒一括採用があることはしばしば指摘されている。ただ読者の中には、そもそも学校を卒業した人が採用されることは、どの国でも当たり前ではないか、という疑問を持つ方がいるかもしれない。
しかし、国際的にみて新卒一括採用は必ずしも当たり前ではない。OECD(経済協力開発機構)は、国際的にみて15歳から29歳の若者が教育を離れる年齢で国々を分類している。
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たとえば、北欧、オランダ、スロベニアなどは「働きながら年長まで勉強」モデルに位置づけられるが、日本は「まず勉強、それから仕事モデル」に位置づけられる。さらにOECDは、特に日本には新卒一括採用という特徴があると指摘している。その特徴とは、学校から職業への移行について、使用者と学校が制度的に連携しているということなのだ。
ここでOECDの述べていることを少し補足すると次のようなことになる。諸外国では学校から職業への移行は、日本ほど急激ではない。日本では4月1日という日付を基準に、多くの学生がいきなり学校から職業へ移行する。
しかし諸外国では、学校から職業への移行はもっとゆるやかであることが多い。たとえばドイツの実習生や、アメリカの長期インターンシップなど、諸外国では学生をしながら職業を経験する機会が多い。また北欧では20代後半まで働きながら勉強することは珍しくなく、18歳や22歳という節目の年齢で、いきなり若者が職業だけに専念するわけでもない。
この点はデータで裏づけられている。リクルートワークス研究所が実施したGlobal Career Survey 2024によれば、大学(大学院を含む)卒業後すぐに就職した人の割合は、日本では78.9%である。他方、ドイツは37.9%、英国と中国は32.0%、フランスは31.7%、スウェーデンは28.1%、米国は26.1%となっている。
この調査結果からリクルートワークス研究所は、新卒一括採用は日本の特徴であると結論づけている。
また注目すべきは、卒業前から就職していた人の比率である。日本では4.9%であることに対し、米国27.4%、スウェーデン26.0%、英国24.9%、ドイツ24.1%、フランス17.2%、中国10.5%となっている。つまり欧米では働きながら学んでいる人の比率が、日本に比べて明らかに高いのだ。
こうした新卒一括採用の特徴は諸刃の剣でもある。日本は国際的にみて若年層の失業率が低く、この点が社会的な安定に寄与しているとされるが、それは新卒一括採用の効果であるともいえる。
しかしOECDは新卒一括採用には「傷痕効果」があると指摘している。傷痕効果とは、高等教育卒業時の景気変動により失業率が高かった場合、その年の卒業者のその後のキャリアに影響が生じてしまうことを意味する。卒業時点の景気が長期的なキャリアに影響を与えるという運不運の存在は、多くの人が不条理に感じる点だろう。
■中途採用という言葉から透けてみえるもの
新卒一括採用という慣行が日本独特のものであっても、現状では中途採用を行う企業が増えてきているため、影響力は弱まってきているのではないか、という疑問を持つ読者がいるかもしれない。
ここで、中途採用という言葉について考えてみたい。
日本経済団体連合会(経団連)は「2023年版経営労働政策特別委員会報告」において、中途採用という言葉を経験者採用に言い換えることを推奨している。同報告書によれば、言い換える理由は中途という言葉がネガティブな印象を与えるからであり、通年採用など採用方法を多様化させ、社会全体で円滑な労働移動を進めていく必要があるからだという。
なぜ中途という言い方にネガティブな印象があるのか。それは新卒に比べて、中途が標準ではないという日本企業の仕組みの前提が透けてみえるからだろう。
従来の日本企業の仕組みでは、新卒採用者だけが標準労働者であり、それ以外の採用形態で入社する者は標準でないから中途と呼ばれてしまう。
そういう意味では、英語に中途・経験者採用という語感そのものを直接的に表現する言葉はない。英語圏では、そもそも新卒一括採用が標準ではないので、標準から外れる中途という語感を表現する必然性がないからだろう。
とはいえ、日本経済新聞の調査によれば、主要企業の中途・経験者採用比率は確実に増加している。採用計画人数における中途・経験者採用の比率は、2017年度まで10%台であった。しかし、2022年度に3割を超え、2023年度は37.6%になった。
これが2024年度の採用計画数では50.8%となり、初めて5割を超えたのである。この数年で中途・経験者採用の比率が一気に増加していることがわかる。こうした中途・経験者採用比率の増加は、今後、たしかに標準労働者の地位規範に影響を与えていくことになるだろう。
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以上、石山恒貴氏の新刊『人が集まる企業は何が違うのか 人口減少時代に壊す「空気の仕組み」』(光文社新書)をもとに再構成しました。日本企業の仕組みと雇用の在り方を変えるには、何が必要なのか。
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