ライフ・マネーライフ・マネー

被害は過去最悪でも「クマ牧場」大人気…“腹ペコバレリーナ” ほか各園の “推しグマ” は? 風評被害は?

ライフ・マネー
記事投稿日:2025.11.01 06:00 最終更新日:2025.11.01 07:33
出典元: 週刊FLASH 2025年11月11日・18日合併号
著者: 『FLASH』編集部
被害は過去最悪でも「クマ牧場」大人気…“腹ペコバレリーナ” ほか各園の “推しグマ” は? 風評被害は?

愛嬌たっぷりに餌を求める奥飛騨クマ牧場の「うり」(写真左・7歳)。

 

 日本のクマ被害がかつてない深刻さを見せるなか、各地のクマ牧場も風評被害に戦々恐々か!? と思い直撃してみると――。

 

 2025年度のツキノワグマ・ヒグマによる人身被害は、10月31日時点で死者12人と、すでに過去最悪のペースになっている。クマは、11月下旬からの冬眠に向けて食い溜めをするため、この時期に被害はピークを迎える。

 

 そこで本誌は、全国に6園あるクマ牧場に取材を申請。昨今のクマ被害が経営に影響を与えていないかを尋ねた。

 

 応じてくれたのは4園。岐阜県高山市にある「奥飛騨クマ牧場」は、来年で開園50周年を迎える老舗の施設で、ツキノワグマを約120頭飼育している。訪問時はあいにくの雨模様だったが、家族連れやカップルが、子グマと一緒に記念撮影するためキャビンに押し寄せ、大賑わいだった。

 

 この撮影会は、母グマの冬眠中に生まれた子グマが巣穴から出る4月中旬から、冬眠モードに入る10月末までおこなわれている。列に並んでいた来場者の蒲慎一郎さんと八木柚香さんも、今年生まれた愛らしいメス子グマの耶々(やや)を抱いてご満悦だ。

 

「地元在住ですが、来たのは初めて。もっとふわふわの感触かと思ったら、意外と剛毛なんですね」(八木さん)

 

「子供のころから、高山の市街でも1年に2回ぐらいはクマが出没していました。慣れっこになってはいけませんが、さして珍しいことじゃないんです」(蒲さん)

 

 中村正明園長は、「当園は、被害連鎖の影響はありません」とキッパリ。むしろインバウンドの増加で営業成績は上向きだという。県内には、第二次世界大戦中にユダヤ人難民に向け「命のビザ」を発行した杉原千畝の故郷がある。イスラエルからの来客も多く、園内ではユダヤ系と思われるグループを数組見かけた。

 

「クマたちは生後2カ月から一緒に生活しています。喧嘩はするけど、殺し合うようなことにはなりません。ふだんからよく観察し、適切な部屋割りをしていますしね。

 

 お客様には、『クマってこんなにかわいいんだ』と思っていただけるはずです。現に、 “推し” の成長ぶりを見届けに来た、というリピーターは多くいらっしゃいますよ」(中村園長)

 

 同園ではクマに有料で餌やりができる。いや、むしろクマにはそちらが主食。通常与えられる飼料より美味しいからだそう。オス・メスともに青年期に達して程ない5、6歳のクマがもっとも活発で、餌のおねだりも巧みゆえに人気。客対応に忙しそうな森本直人次長が、こう振り返る。

 

「風評被害といえば、かつて秋田で起きたクマ牧場での事故が、当園で起きたと勘違いされる方もおられて、しばらく客足が落ちたことがありました」

 

 2012年4月、「秋田八幡平クマ牧場」で、6頭のヒグマが園舎を脱走し、女性飼育員2名を襲撃し死亡させ、同園は同年6月に閉鎖された。そして、そこで飼われていた残る27頭のヒグマを引き受けたのが、次に紹介する秋田県北秋田市の「くまくま園」だ。

 

 同園は珍しく公営で、前身の「マタギの里・熊牧場」の設立は1989年。当初から、県内外で有害駆除された個体が残した子グマを飼育していた。

 

■安易に “かわいい” と伝えるだけでなく「適切に恐れる」ことが大切

 

 現在はツキノワグマ48頭・ヒグマ17頭を飼育。北秋田市観光課の麻戸郁弥主任は、「2024年1・2月に生まれたツキノワグマの3頭『陸』『海』『空』が人気」と言う。

 

「当初は地域の観光全般への風評被害が出ないか、脱走などの事故対策は万全なのかといった懸念があったと聞いています。今も大きな事故が発生した直後は、恐怖心から一時的に家族連れの来園が減少する傾向があります」

 

 だが、来園者数は比較的早く回復するそうだ。

 

「安易に “かわいい” と伝えるだけでなく、クマと人が共存してきた『マタギの里』として、大切な動物であるクマを “適切に恐れる” ことを伝えております。

 

 八幡平クマ牧場は、クマを冬眠させぬまま除雪していたことで、脱走につながる危険性がありました。そこで当園では冬眠させ、春に点検をおこなった後に除雪し、放し飼いにする体制をとっております」(麻戸さん)

 

 北海道登別市の「のぼりべつクマ牧場」にも話を聞いた。広報担当の高橋諭さんは、「事故が起きるとPRを控えねばならず、その結果、客足が伸びない時期が生じる」と言う。

 

「当園は1958年開園と日本最古。当時は道民でもヒグマに接する機会は稀で、その生態にふれる場を設けたいとの創業者の思いから設立され、世界初のヒグマの多頭集団飼育に成功しました。

 

 現在66頭のヒグマがおり、おねだりのたびに踊って『腹ペコバレリーナ』の異名を持つメスのベッキーらが人気です」(高橋さん)

 

 また、のぼりべつと同系列で2006年に開園した道内上川郡新得町の「ベア・マウンテン」の場合、連鎖被害での「格別の影響は感じない」と担当者の高橋友祐さん。

 

「なるべく自然の状態に近いヒグマを観察してもらおうと、15ヘクタールの敷地内に9頭のヒグマを放し飼いにしています。飼育員によって “推しグマ” は違いますが、来場者にはオスのヒロタケが人気です」

 

 くまくま園、ベア・マウンテンは10月末前後から休業に入る。ただ、両園とも冬季に期間限定で、人口冬眠の見学ができる。「非日常的な体験で、非常に反響が大きい」と、前出の麻戸さん。

 

 本来は餌の枯渇する冬場、体力温存のためクマは冬眠する。ところが、開発などで山中の食糧が激減し、人里に餌を求めて冬眠しないクマが自然界にも増えている。山を荒らすのは人間のほうで、眠りを妨げられたクマに罪はないのだ。

 

写真・保坂駱駝
取材/文・鈴木隆祐

12

ライフ・マネー一覧をもっと見る

今、あなたにおすすめの記事

関連キーワードの記事を探す