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コンピュータ将棋界「次なる最強者」は1秒間に20億手も読む

ライフ・マネー 投稿日:2018.04.04 11:00FLASH編集部

コンピュータ将棋界「次なる最強者」は1秒間に20億手も読む

 

 現在のコンピュータ将棋界の有名人といえば、佐藤天彦名人を下した「PONANZA」を開発した山本一成がその筆頭だ。コンピュータ将棋を専業にして活動しているのは、現在では山本1人だけ、と言ってもいいだろう。

 

 東大将棋部の冴えない学生だった山本が、プログラミングと出会う。将棋とプログラミング、いずれにも魅せられた若者が圧倒的な努力を重ね、ついには名人を倒すほどの、世界最強のプログラムを作り上げる。

 

 その山本のライバルの1人に挙げられるのは、「技巧」開発者の出村洋介である。

 

 出村は東大のロースクールを卒業して、現在は弁護士として忙しい生活を送っている。出村にとってはもともと、プログラミングは趣味だった。

 

 コンピュータ将棋の開発は、司法試験に合格して、時間的に少し余裕ができたことから始めたという。理系ばかりと言っていいコンピュータ将棋界にあって、異色の経歴の持ち主である。

 

 世界コンピュータ将棋選手権2016年大会では、本命がPONANZA、対抗が技巧だった。2次予選では技巧の勝ち。決勝リーグでは、千秋楽結びの一番で、両者は全勝同士で対決した。

 

 その棋譜を見せられている人間にとっては、何をやっているのか、ほとんど意味がわからない。「棋は対話なり」という言葉がある。それに従えば、コンピュータソフト同士は、人間には理解できない対話を、既にしていることになる。

 

 2016年の最終決戦はPONANZAの勝ち。本命が対抗を降して、大会2連覇を飾った。

 

 近年では、効率のよい手法が確立されて、コンピュータ将棋の開発も、ずいぶんとスマートになったところはある。しかしそこからさらに他者と差をつけようとすれば、泥臭いことを地道にやっていかなければならない。山本や出村、あるいは他の開発者も、最後はそうしたところで争っている。

 

 一方で、そうした姿勢と対極的なのが、「大合神クジラちゃん」開発者の、鈴木雅博である。鈴木は現在フリーのプログラマとして、傍目には、悠々自適な生活を送っている。

 

 鈴木はそのハンドルネームから、「えびふらい」とも呼ばれる。普段から、ネット上でその開発の模様を生中継で公開している、人気者だ。

 

 筆者が初めて鈴木と会ったのは、2011年のコンピュータ将棋選手権だった。鈴木が開発したシステムは画期的だったが、まずその前に、鈴木が会場から、ニコニコ生放送で中継をしているのが目立った。

 

 鈴木の開発する「大合神クジラちゃん」は、世界中のコンピュータをネットワークでつなげて、みんなの力で読みを進めていくというコンセプトを採用している。コンピュータ将棋界の中にあっても、オンリーワンとも言えるユニークな存在だ。

 

 コンピュータ将棋界では、「速さは正義」という格言がある。ソフト、ハード、いずれの面でも高速化が実現化されれば、それだけ強くなることは間違いない。

 

 NPS(Nodes Per Second)というコンピュータ将棋用語がある。ざっくりいえば、これは1秒間に何手(何局面)読むかを示している。ハードの質量が向上するだけ、NPSは上がる。

 

 1997年、IBMが多額の開発費をかけて生み出したチェス専用のスーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」は、1秒間に2億手を読むと言われた。そして不世出の世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフ(ロシア)を降している。

 

 では、現在のコンピュータ将棋では、どれほどのNPSが出るものか。筆者の手元の、20万円ほどのノートパソコンでは、300万から400万ほど。これで普段、棋譜を検討し、ソフトが示す最善手を参考にしている。ソフトは数秒ほどで、ほぼ正解を見つける。

 

 2017年のコンピュータ将棋選手権において、大合神クジラちゃんが叩き出そうとしていたNPSは、それらの比ではなかった。500台近いコンピュータの協力のもと、なんと20億以上ものNPSが出ていた。すさまじいまでの、記録的な数値である。

 

 

 以上、松本博文氏の新刊『藤井聡太はAIに勝てるか?』を元に作成しました。天才の誕生とコンピュータの進化で大きく揺れる棋界の最前線を追います!

 

●『藤井聡太はAIに勝てるか?』詳細はこちら
https://smart-flash.jp/shinsho-guidance-83

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