
北海道滝上町・山田文夫さん(72)
ベテランハンターで、父親から受け継いだ「山田牧場」を北海道滝上町で営んでいる山田文夫さんは、2022年7月、自分が撃って仕留めたと思われたヒグマに襲われた。
この日の夕方、牧草地で草を食べるヒグマ2頭の駆除要請を受け出動した山田さん。牧草地は細長い半楕円形で、曲線の縁は落ちて崖になっていた。午後5時30分ごろ、30代のハンターと2人で現場に向かった。
距離60mの場所から2頭を別々に撃ち、山田さんの撃った弾は、1頭のクマの横腹に見事に命中した。
「牧草地の縁までよろよろと歩いていったので、もう1発撃った。そうしたら、崖下へ転げ落ちて姿が見えなくなったんです」
もう一人のハンターは別の1頭を狙ったが、弾が外れて逃げて行ってしまった。山田さんは、ガサガサと動く崖下の笹薮の中に手負いのクマがいると考え、一人で崖の中腹まで降りて足場を固め様子を窺った。
「笹薮の動きが止まったので、これは死んでいると思ったのですが……」
死骸確認のため、さらに崖を下り「確かこの辺だったよなぁ」と、山田さんは笹薮を進んだ。すると、崖上に待機していたハンターが大声を上げる。
「山田さん!動いてるわ!」
突然、正面からクマが襲いかかってきた。
「一瞬で仰向けに倒され、持っていた銃はふっ飛ばされましたね」
気づけば、クマの鼻先が山田さんの目の前にあった。開いた口や牙が見えたかと思った瞬間、顎に食いつかれた。実際は、その前に頭を爪で引っかかれ、その傷はかなりの深さだった。
腕や腹も噛まれたが、山田さんはキックやパンチで抵抗した。至近距離での格闘中に偶然、右の拳がクマの口の中に入る。相手は一瞬ひるみ、顔が離れた。一気に視界が広がると、ヒグマの腹や脚までが見えた。
そのとき、弾が当たった横腹から飛び出ていた腸が、山田さんの目に入った。無我夢中で手を伸ばして腸を掴み、思いきり引き出す。クマはそこで初めて闘いを諦めたのか、内臓を引きずりながら、その場を離れていった。ヒグマの体重は70~80kgの中型だったという。
山田さんは頭、顔、顎、腕などに裂傷を負い、約70針を縫う大怪我で2週間入院。今も後遺症が残っている。
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