
「推し旅」担当の牛田浩之さん(左)と、「貸切車両パッケージ」 担当の森本啓太さん(写真・梅基展央)
「ビンゴ!おめでとうございます」
東海道新幹線「のぞみ」の車内に、にぎやかな声が響く。おこなわれていたのは、サントリーとJR東海とのコラボイベントだ。新商品発売を記念して新幹線の車両を貸し切り、3000近い応募から選ばれた10組20人とインフルエンサーら計約50人が参加した。
車内はイベント仕様に飾られ、バーカウンターも設置。東京~新大阪の2時間半、新商品のお酒や沿線の名物おつまみが提供され、大いに盛り上がった。サントリーの担当者は、企画の意図をこう話す。
「乗車された方に新商品を知っていただき、SNSなどで発信していただくほか、業界紙などメディアも招いて取材をお受けしています。新幹線を貸し切ること自体の注目度も高く、宣伝効果は大きいと考えています」
じつはこれ、JR東海の「貸切車両パッケージ」というサービスだ。日本の大動脈であり、“ドル箱路線”と呼ばれてきた東海道新幹線だったが、コロナ禍の苦境に直面。それを乗り越えるためのさまざまなアイデアのなかから、2022年に誕生した。だが、担当者である営業本部・森本啓太さんは、こう語る。
「販売開始直後は、企画の主催者である企業や旅行会社の方に『新幹線の車両を1両丸ごと貸し切れるうえ、そのなかで自由に企画できます』と営業しても、JR東海はそれまでエンタメとは無縁でお堅いイメージがあるのか、半信半疑で信じていただけなかったんです」
その潮目を変えた企画が、2023年9月におこなわれた「新幹線プロレス」だ。
「『DDTプロレス』さんとの企画で、新幹線の車内で試合を開催したんです。これをさまざまなメディアに取り上げていただいたことで、『新幹線でこんなことをやっていいんだ』と、認知度が一気にアップしたと思います」(同前)
これまで実施されたのは、アイドルや声優、お笑い芸人のイベントのほか、商品のPR企画や企業の周年祝い、スポーツ観戦ツアーなど。車内装飾や音響設備、モニターの設置に加え、カラオケまでOKとあって、新幹線の持つ「非日常」感が、イベントによって一層高まる。
「さまざまなご提案をいただきますが、どんな内容であっても、すぐに『ノー』とは言いません。『やり方を考えさせてください』と申し上げることにしています。先ほどのプロレスの場合は、レフェリーが選手の汗をしっかりぬぐい、座席を汚さないこと、技は、ブレーンバスターは天井に足が当たるのでNG、パイルドライバーならOK……など、調整を重ねました」(同前)
公序良俗に反しないことは大前提だが、東海道新幹線の過密ダイヤに影響を与えないことも重要だ。椅子の配置を変更したり、大がかりな装飾をおこなったりする場合は、回送列車や車両基地で実験を重ねることもある。そうして受注につながった企画のひとつが、12月19日に運行される「新幹線ディスコカー」だ(すでに完売)。
ディスコライトやお立ち台など、1980年代のディスコを車両に再現し、TRFのDJ KOOや、「マハラジャ六本木」に所属するDJがプレイ。懐かしのディスコソングで踊りながら、新大阪までの旅を楽しめるイベントだ。
「セッティングは、新幹線が東京駅に到着してからの数分間が勝負です。その短い間に、車両内をイベント空間に作り替えなくてはいけません。新大阪で撤収するときも、毎回、緊張の連続です。イベントで使用するレッドカーペットを敷く技術は、すごく上達しましたね(笑)」(同前)
■リニア設計開発から「推し活」部署へ!公募へ応募した東大院卒の技術者
JR東海がコロナ禍をきっかけに打ち出した新幹線を使った新ビジネスが、もうひとつある。2021年にスタートした「推し旅」キャンペーンだ。新幹線に乗ってアイドルやアニメ、スポーツなど“推し”の応援を楽しむためのサービスである。
「アカウント登録して新幹線にご乗車いただき、スマホの位置情報による測定で一定の走行速度を検知すると、限定配信の音声ドラマなどを楽しむことができる仕掛けになっています。オリジナルのスマホ壁紙や、ノベルティとの引換特典などもあり、事前予約や追加のサービス料は不要。新幹線の運賃・料金だけでお楽しみいただけます」
管轄の需要創出グループに所属する牛田浩之さんがそう説明する。
そんな牛田さん、東京大学大学院出身で、もともとは超電導リニアの「地上コイル」という部品の設計開発担当だった。バリバリの技術者なのだ。
「前の部署の仕事も好きでしたが、いままでと違うことに挑戦してみたいと、思い切って社内公募に応募しました。それまで、いわゆる“推し活”とは縁がありませんでしたが、いまは、楽しみながら勉強中です」(同前)
いまでは、年間で100件以上ものコラボ企画をおこなっている「推し旅」。公式サイトを開けば、あなたも推したくなるものがきっと見つかるはずだが、「貸切車両」が企業などと連携しながら試行錯誤してきたのに対し、牛田さんはアイドルやアニメの権利元に提案をおこなう側になる。だが、企画の実現に向け、最初に「ノー」と言わないのは同じだ。
「ただ、全改札機のICカード使用時の通過音を、あるキャラクターの声にしようというアイデアがありましたが、改造にかかる費用と労力が想定よりあまりにも大きく、見送りましたね(笑)」(同前)
反響が大きかったのが、人気アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』との、2023年から継続しているキャンペーンだった。これを機に、作品の聖地である静岡県沼津市を訪れるファンも多かったという。
「海外からのお客様もいらっしゃいます。コラボイベントなどでお客様対応をしていると、スマホの翻訳機能を利用して話しかけてくださる方もいて、とてもうれしいですね」(同前)
新幹線という移動手段を「エンタメ空間」に――。そんな若手社員たちの奮闘から、今後どんな展開が生まれるのか。
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