
「TEMPLESTAY ZENSO」でBBQを楽しむ宿坊研究家・堀内克彦さん(右)と本誌記者。上州牛に大満足
日々の仕事で煩悩やストレスが――。そんなときに心を整えるためにおすすめなのが、寺や神社に設けられた宿泊施設「宿坊」だ。
「パワースポット巡りや御朱印集めの流行もあって、興味を持たれる方が増えています」
そう話すのは、26年間で100軒以上の宿坊を訪ね、インターネットサイト「宿坊研究会」を主宰する堀内克彦さん。宿坊は、もともと僧侶や信徒、参拝者のための施設だったが、近年では高級ホテル顔負けの設備や、個性をウリにするものが増えているという。
「宿坊は、好奇心が刺激される “びっくり箱” 。朝のお勤めや写経、禅宗のお寺なら坐禅の体験ができる施設は多く、さらにサウナがあったり絶景が眺められたりと、多様化しています。体験したい内容に合わせ、お気に入りの宿坊を見つけていただきたいですね」
今回は、群馬県千代田町にある宝林寺の「TEMPLESTAY ZENSO」と、東京都港区の「Temple Hotel 正伝寺」にいざ出陣!
「おしゃれで、想像と違う!」
15時のチェックイン。宝林寺が運営する「TEMPLESTAY ZENSO」の玄関に入っての印象だ。
「まず一歩を踏み出してもらう、ということを意識して設計しました。宿坊=厳しいプチ修行というイメージを変えたかったのです」
と話すのは、海野峻宏(うみのしゅんこう)副住職。群馬県邑楽郡(おうら)千代田町で約700年続くこちらの寺に戻る前には、観光業や宿泊施設を作る仕事に携わっていたという。
「予約する際には部屋だけを押さえ、興味を持ったものを “トッピング” していただくシステムです。坐禅や朝のお勤めのほか、自然体験などもご用意しております」
本誌記者が選んだのは写経体験(1000円)。以前から関心があったし、この機会に挑戦してみた。
江戸時代に徳川綱吉の命により造立された数多くの仏像を前に、初めての写経はまさに無の境地。「こんなに集中したのはいつ以来?」と、一字一字、筆を運ぶのが楽しい。
写経のあとはお楽しみの夕食。副住職の「千代田町のことを知っていただきたい」という思いから、近隣の特産品などを提供している。
マルゲリータが楽しめるピザ窯体験にも惹かれたが、今回は地元の事業者が取り扱うブランド牛・上州牛を使った「手ぶらでBBQセット」を予約した。
お酒も飲める。今回は持ち込みにしたが、地元の酒蔵の日本酒も選べるそうだ。肌寒いなか、炭で火をおこして焼いた肉は、最高にうまかった。このときばかりは煩悩の塊だったと思う。
寝心地のいい寝具に包まれてあっという間に眠りに落ち、翌朝は6時にパッチリと起床。7時から朝のお勤めに参加し、その後は坐禅体験(1200円)だ。写経とはまったく逆で、 “無” になろうと思えば思うほど、雑念が湧いてくる。副住職が「わずか10分間ですが、30分ほどに感じると思いますよ」と説明してくれたとおり、とても長い時間に感じた。
「坐禅の10分間は、日常で過ごす時間とはまったく違って感じられたと思います。日々の時間をどう過ごしているのか、あらためて考えてみてください」(海野副住職)
チェックアウトは11時。ピンと張り詰めた空気のなかで、生まれ変わったような感覚に浸りながら、長い参道を歩きお寺の門を後にした。
一方、東京の都心にも宿坊はある。続いて訪れたのが、港区芝の正伝寺が運営する「Temple Hotel 正伝寺」だ。
「お寺にふれ、仏教を知っていただく機会が増えればと思い、これまでも毎年、落語や怪談の会を開いてきました。宿坊は2019年オープンで、最近は宿泊客の8割が外国の方です」
そう語るのは、田村完浩(かんこう)住職だ。江戸三大毘沙門天の一つが祀られている正伝寺で、宿坊での人気の体験イベントが、数珠づくりだ。
「魔除けやお清めの意味がある塗香を手に塗り込んでから始めます。数珠はお守りであり、お祈りの道具でもあり神聖なものですからね」(同)
健康や家庭円満などの意味を持つ玉を紐に通していく作業は、けっこう楽しい。記者が選んだ玉は、金運。はたして、効果は!?
■「宝林寺 TEMPLESTAY ZENSO」
寺が開かれた年:1306年・宗派:黄檗(おうばく)宗
住所/群馬県邑楽郡千代田町新福寺705
料金/2名まで2万8000円+清掃費5000円、1名増えるごとに+6000円(最大6名まで)
■「Temple Hotel 正伝寺」
寺が開かれた年:1602年・宗派:日蓮宗
住所/東京都港区芝1-12-12
料金/2名1室利用時で1名1泊1万円台〜
そしてさらに、堀内さんがおすすめしてくれたのが、以下の7軒の宿坊。いずれも、体験や設備に工夫を凝らした施設ばかりだ。あなたが気になる一軒は?
■「二尊院 宿坊えんとき」/お坊さんと呑める宿坊!
寺が開かれた年:807年・宗派:真言宗御室(みむろ)派
住所/山口県長門市油谷向津具下3542-1
料金/1名1万3000円~(1泊2食つき。素泊まりは9500円~)
久津という小さな漁師町で、背後を山に囲まれた静かな場所にある宿坊。「悩み相談に来る人ともっとじっくり向き合いたい」と考えた田立住職が開く「坊主バー」が人気の、「お坊さんと呑める宿」だ。田立住職が漁船の舵をとる「厄除けクルージング体験」(4〜11月・2名まで1万円、3名からは中学生以上+3500円)は、江の島や吉田松陰が巡検した台場跡など、船上からしか見ることができない場所に案内してくれる
【宿坊研究家・堀内さんのおすすめポイント】
境内には、日本に逃げ延びた「楊貴妃の墓」と伝えられる五輪塔があります。なかなか体験できる機会のない滝行も大人気です
■「高野山 宿坊恵光院」/ラグジュアリーな宿坊
寺が開かれた年:平安時代・宗派:高野山真言宗
住所/和歌山県伊都郡高野町高野山497
料金/1名2万5000円〜13万7000円(2食つき)
約1200年前に、弘法大師空海が建立した五重塔(のちの廻向院)に由来する宿坊寺院。伝統を守りながらも、ベッドルームつきの和洋室や半露天風呂つきの客室などゆっくりくつろげる環境で、100平方mのスイートルーム「月輪(がちりん)」のラグジュアリーさは圧倒的。真言密教の修法である護摩祈祷が体験でき、炎の前で手を合わせることで迷いや悩みを清める力が。「気持ちが軽くなった」と満足する外国人客や年配の利用客も多い。
【宿坊研究家・堀内さんのおすすめポイント】
宿坊の多い高野山のなかでも、先進的な一軒です。NBAの超人気選手であるデアンドレ・ジョーダンが、宿泊してSNSに上げていました。
■「おおま 宿坊普賢院」/本州最北端の宿坊
寺が開かれた年:1990年・宗派:曹洞宗
住所/青森県下北郡大間町内山48-137
料金/1泊2名まで2万8000円、3名以上10名まで各2万5000円
青森県下北郡大間にある宿坊。一日一組限定の一棟貸しで、敷地は3500坪もあり、野生動物が顔を見せることも。古民家を思わせる宿でゆったりと過ごせるため、何度も足を運ぶ人も多いという。境内だけでなく菊池住職の“貸し切り”までできるのが特徴。日本一のマグロの生産地だけあって、夕食は津軽海峡で水揚げされた厳選した大間マグロや新鮮な海の幸が味わえる。
【宿坊研究家・堀内さんのおすすめポイント】
青森市から車で3時間かかる本州最北端の宿坊ですが、行く価値は十分にあります。夕食で出される新鮮な大間マグロは絶品。
■「宿坊国昌寺」/離島にある宿坊
寺が開かれた年:1600年・宗派:日蓮宗
住所/長崎県対馬市厳原町大手橋1128
料金/1泊2名2万7000円~※「一棟貸し」のため、1名でも同料金
古代には防人が国を護り、鎌倉時代の蒙古襲来では島民が最後まで抗戦した対馬。地元で生まれ育った作元住職が、その歴史に深い敬意を抱き、「 “対馬の魂” を体感してほしい」とさまざまな体験メニューを考案。なかでも「甲冑着付け体験」(料金込みの宿泊プランあり)は、島を護った人々の祈りや覚悟を体感できる。地元でとれた無農薬野菜や名産のアナゴ、自家製の発酵調味料を使った朝食も人気。
【宿坊研究家・堀内さんのおすすめポイント】
日韓の国境に近い対馬を知り尽くした住職が歴史観光ガイドをしてくれます。「甲冑着付け体験」では、ドローンでの撮影も!
■「宿坊安楽寺」/保護猫がいる宿坊
寺が開かれた年:718年・宗派:高野山真言宗
住所/福井県あわら市北潟42-12-2
料金/精進料理体験&護摩祈祷つきプラン 1名3万円 ~(素泊まり1万8000円~)
「にゃんらくじ」という保護猫団体を立ち上げて活動している杉本住職。そのため宿泊客のなかには、滞在中に宿坊と棟続きの保護猫専用ルームで、猫たちとふれあう人もいるそう。「静かに心と体を休めたい」と訪れる利用者が多く、夜の本堂でおこなうキャンドル瞑想に感動するインバウンド客も少なくない。近くには北潟湖や東尋坊、雄島などの名勝や、あわら温泉街があり、最寄り駅への送迎の際、希望があれば杉本住職が案内してくれる。
【宿坊研究家・堀内さんのおすすめポイント】
精進スイーツも人気の寺で、卵ほか動物性材料を使わない精進形式のケーキなどを作る教室があります(レシピ・材料代込みで4000円)。
■「一畑薬師 一畑山コテージ」/サウナでととのえる宿坊
寺が開かれた年:894年・宗派:臨済宗妙心寺派
住所/島根県出雲市小境町803
料金/1名1万5000円~
“目のお薬師さま” として全国的に知られる古刹。その境内にあるコテージには、まるで茶室か小庵のようなサウナが。「ユーカリ」「白樺」「薪の香り」などのロウリュで、誰にも邪魔されない「サウナ禅」をおこなえる。温まった後は、天然石をくりぬいた水風呂で一気に冷やし、ととのうことができる。薬師のある一畑山で栽培された伝統の茶で調理されたお茶粥や旬の野菜の「薬膳朝食」もぜひ食べたい。
【宿坊研究家・堀内さんのおすすめポイント】
宍道湖を望む高台に建てられたコテージ型の宿坊からの眺めはまさに絶景です。住職こだわりのサウナを設置、心も体もととのいます。
■「海蔵寺 宿坊櫻海(おうみ)」/「煩悩の扉」が開ける宿坊
寺が開かれた年:1050年・宗派:曹洞宗
住所/京都府与謝郡伊根町平田102
料金/1名1万8000円、2〜6名で各1万3000円、小学生5000円、未就学児0円(布団、朝夕食不要の場合)
多くの舟屋宿が並ぶ漁師町にある、食事が評判の宿坊。魚のあらを餌にしたカゴ網「もんどり」での漁体験では、獲った魚を調理して食べ、食事の大切さを学べる。天野住職が調理する精進料理は、夜はフルコース。約100年前の貴重な漆塗りのお膳で食べられる。近所にコンビニがないため、室内に設置されたジュース、ビール、高級アイスが入った冷蔵庫には「煩悩の扉」の文字が。冗談のつもりだったが、けっこう人気だそう。
【宿坊研究家・堀内さんのおすすめポイント】
境内の樹齢180年の桜と、海が見えるロケーションが素晴らしい宿。修行体験ができ、カップ麺などが入った「煩悩の箱」もあります。
宿坊研究会・堀内克彦さん
「人生を変える寺社巡り」がテーマの寺社旅研究家。企業顧問や仏前結婚式盛り上げ企画などもおこなう
写真・金谷千治、木村哲夫
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