ライフ・マネーライフ・マネー

仏教徒が目指した「天界」飲酒も性交も可能な「六欲天」は経典にどのように書かれているのか

ライフ・マネー 記事投稿日:2026.02.21 06:00 最終更新日:2026.02.21 06:00

仏教徒が目指した「天界」飲酒も性交も可能な「六欲天」は経典にどのように書かれているのか

ガンダーラ美術(写真:New Picture Library/アフロ)

 

 仏教の宇宙論を記述した仏教経典に天界の構造が書かれている。

 

 天界は大きく分けて3層ある。地下の地獄界から、六欲天(ろくよくてん)までを「欲界」という。そして、その上方に「色界」、さらにその上方が「無色界」といわれる。欲界に住む者は、神といえどもまだ欲望を生じるので、この世界は欲界といわれる。

 

 在家信者は、欲界の六欲天を目指した。六欲天は下から(1)四天王天(2)三十三天(忉利天)(3)夜摩天(4)兜率天(覩史多天)(5)楽変化天(自在天、化楽天)(6)他化自在天の6つの天界によって構成されている。

 

 これらの六欲天は、いまだに欲望を捨てきれない神々が住んでおり、道徳的にも不完全な存在なので、六欲天に住む者はみな欲望を発散させなければならない。この欲望の発散方法については、仏教経典の『長阿含経』巻第18第30経の「世記経」などに、次のように述べられている。

 

《愛欲を享受するのは六(欲)天である。[中略](六欲天では)男女による、互いに抱き合う、手をつなぐ、互いに微笑む、ただ見つめ合うという(五種類の)性交がある。

 

 大地に住む者(人間)においては、性交は男女によって行う。四天王天と三十三天に住む者においては人間と同様の性交を行う。ただし、彼らには精液がないので、風を排出することによって(性欲の)熱が離散する。

 

 夜摩天に住む者においては、抱き合うことによって(性欲の)熱が離散するから、性交は抱き合うことによって行う。兜率天に住む者においては、手をつなぐことによって性交を行う。楽変化天に住む者においては、互いに微笑むことによって性交を行う。他化自在天に住む者においては、ただ見つめ合うことによって性交を行う。》

 

 このように六欲天にあっては、下方の2つの天界である四天王天と三十三天では、人間と同じような性交が行われることによって欲望を発散しているのである。この2つの天界から上方のいくつかの天界では情欲は次第に希薄となり、一切の欲望が消滅した境地に近づいていることがわかる。

 

■三十三天の園林における飲酒

 

 また、仏教経典の『正法念処経』巻第28には、三十三天に生天した者は善業によって、蓮華の中に湧出した摩偸(まとう)と呼ばれる美味な酒を、天女と共に飲み、長い間快楽を享受できるという。この他に、同書の巻第25には、一切楽林(いっさいらくりん)と呼ばれる園林について記述されている。

 

《全ての天人たちはまた一切楽林に入る。その園林は全て毘琉璃(青色の宝石)の樹木で作られ、(その樹木には)金の果実が実っている。(その果実は)美味で満ち足りていること、派那婆果のようである。(その果実は)色と香りと味があり、諸々の天人たちはその果実を採り、開いて(その果汁を)飲むと、その味は人の世界で最高の味である摩偸の酒よりも美味である。諸々の天人はこの酒を飲んでも、酔って乱れることはない。天では三種類の(仏道に反した)自由奔放な快楽がある。その第一は天女であり、第二は果実を食する、第三は五欲である。これを三種類とし、自由奔放な快楽を受ける。》

 

 このように、一切楽林では、3種類の快楽を得ることができる。その3種類とは、一に天女(との交わり)、二に果物を食す、三に五欲である。三十三天にある果物は、それを開いてその果汁を飲めば、その味は人間界における最上の酒である摩偸の酒以上に美味であり、天人はそれをどれだけ飲んでも酔っ払うことがないという。摩偸とは、サンスクリット語のマドゥ(madhu)であると考えられる。この語は、甘い、美味しいないしは、ハチミツを意味しているので、おそらく、摩偸の酒とは、とても甘くて美味しい酒ないしは、ハチミツ酒を意味していると考えられる。

 

 また、『正法念処経』経巻第28によれば、三十三天では、蓮華の中に摩偸の酒が流れ出すという。

 

《(天子たちが)至る所に蓮華の池が生じる。多くの様々な種類の蓮華によって池が荘厳され、毘瑠璃の葉は、真金をその茎とし、白銀をその蘂(しん)としている。蓮華の(花の)台の上の多くの天女たちはすばらしい声で歌う。善業によって、その蓮華の中に、摩偸を流出する。[注:摩偸とは美味なる飲み物で俗名は酒である]。天女はこれ(摩偸)を飲み、蓮華の(花の)台の諸々の天子たちと共に蓮華の台に住む。天女は(天人を)囲んで、共に摩偸を飲み、長い間快楽を受ける。それが終わると空から降りて、鳥について行く。そして天女たちは、優鉢羅(青蓮華)殿に至る。その宮殿の縦の広さは二由旬ほどである。このような百千の青蓮華の花の天女は一人一人、(その蓮華の)一つの葉の先端に止まり、歌舞や伎楽を行う。》

 

 このように、三十三天にある蓮池の蓮華からは、摩偸の酒が流れ出し、この天界に再生したものは、それを飲み、天女と戯れて、天女の歌を聞いて、快楽を得ることができる。これらの仏教経典の記述から、男女の交歓や飲酒が、天界の三十三天において行われていることが判明する。このような享楽が、ガンダーラの飲酒饗宴や交歓の場面を表した図像に対応するのである。

 

 

 以上、田辺理氏の近刊『ガンダーラ仏教美術の謎 シルクロードが生んだ仏像と「愛の楽園」』(光文社新書)をもとに再構成しました。仏像が生まれた国の破戒的・異端的な彫刻は何の目的で制作され、何を意味しているのか、丹念に検討します。

 

『ガンダーラ仏教美術の謎』詳細はこちら

出典元: SmartFLASH

著者: 『FLASH』編集部

ライフ・マネー一覧をもっと見る

今、あなたにおすすめの記事

関連キーワードの記事を探す