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月収44万円で11万円が医療費に消えることも…「高額療養費」見直しで「子供の学費か自分の治療か」究極の選択に直面する可能性

ライフ・マネー 記事投稿日:2026.02.22 06:00 最終更新日:2026.02.22 06:00

月収44万円で11万円が医療費に消えることも…「高額療養費」見直しで「子供の学費か自分の治療か」究極の選択に直面する可能性

高額療養費の上限引き上げに合意した片山さつき財務相(右)と上野賢一郎厚労相(写真・共同通信)

 

「重要なセーフティネットである高額療養費制度を、将来にわたって堅持していくという観点からおこなうこととしたものです」

 

 2月10日、上野賢一郎厚労相は記者会見でこう述べた。

 

 2日前の衆院選で、次点に3倍以上の差をつけて当選した上野氏は2025年12月、片山さつき財務相と折衝。2026年8月から段階的に、高額療養費の自己負担の月額上限を引き上げることを合意したのだ。

 

 高市自民党の大勝で、そのまま決定する見込みのこの見直しは、我々にどういう変化をもたらすのだろうか。

 

「上限額が引き上げられれば、治療を受けられるのは経済的に余裕がある人だけという医療格差が起きるでしょう。これは、国民皆保険の根幹を揺るがす問題だと思います」

 

 そう語るのは、えびな脳神経クリニック(神奈川県海老名市)の脳神経外科医・尾崎聡医師だ。

 

「高額療養費制度とは、医療費が高額になった場合、所得に応じて月額の自己負担に上限を設け、それを超えたぶんが返金される制度です。国民皆保険のなか、重症化・長期化する病気から家計を守る最後の防波堤とされてきました」

 

 救急医療の最前線で多くの脳疾患の手術に携わってきた尾崎医師は、高額療養費制度があるからこそ成り立っている急性期医療の現実を語る。

 

「脳卒中の急性期は、入院した時点で一気にお金がかかります。救急搬送、CTやMRIなどの画像検査、血管造影検査や点滴治療、そして必要になれば手術費――。いずれも、現役世代にとって医療費が高額になりやすい治療です。高額療養費制度があるから治療を続けられている患者さんは、数多くおられます」

 

 上限額が引き上げられれば、現役世代は急性期の段階から自己負担が重くなる。しかも脳卒中は、それで終わらない。

 

「回復期リハビリ病棟で数カ月入院するケースも多く、月々の負担が3カ月、4カ月と積み上がり、患者さんの生活を直撃します」(同前)

 

 では、負担は実際にどの程度増えるのか。登録者数93万人の「YouTube医療大学」を運営する総合診療医・舛森悠医師が解説する。

 

「自己負担の上限額は、所得区分を現行の4区分から12区分に細分化し、さらに限度額を引き上げます。最大で約38%の負担増となります」

 

 その最大引上げ率が直撃するのが、年収370万〜770万円の「平均所得層」だ。ここで、年収700万円(月額総支給58万円)の父親を例に考えてみよう。

 

「2027年8月以降、この方は『年収約650万〜約770万円』の新区分となり、月額の自己負担上限は現行の8万100円から11万400円へ跳ね上がります。月収を手取り額に換算すると44万円ですから、この方にとって、治療が続く月には収入の約25%、11万円が医療費に消える計算です」(同前)

 

■見直しの軽減効果は月額49円にすぎない

 

 毎年、約27万人の20〜64歳が新たにがんになる。がん治療は半年、1年、あるいはそれ以上続くことが珍しくない。そんな現状のなかの今回の見直しに、舛森医師にはある危惧がある。

 

「今後、『子供の進学費用を守るために、自分の抗がん剤治療を中断する』という選択を迫られる親が出てきかねません。今年1月に公表された全国保険医団体連合会の調査によると、高額療養費制度の利用経験がある人のうち65.7%が、限度額が引き上げられた場合に『受診の間隔を延ばす、または受診を見送る』と回答しているのです」

 

 今回の見直しによる保険料の軽減効果は、2026年度で約700億円。国民1人あたりでは、月額49円にすぎない。だが、その代償は大きい。

 

「がんはステージが進むほど、手術だけでなく抗がん剤や放射線などの治療が必要になり、医療費は早期治療の数倍に膨れ上がります。『お金がかかるから』と治療を先延ばしにすれば、がんは進行し、結局はより高額で長期にわたる治療が必要になるのです」(同前)

 

 一方、札幌中央整形外科クリニック(北海道)の亀田和利医師は、日常生活の維持を支える立場からこう語る。

 

「今回の変更の影響を強く受けるのは50代です。たとえば変形性膝関節症や股関節症が進み、痛み止めや注射では限界を迎え、人工関節手術などが必要になる患者さんが増えるためです。同様に脊柱管狭窄症や頸椎手術も、高額療養費制度の対象になりやすい治療です。現在の水準で自己負担が抑えられているからこそ、『手術を受けて仕事に戻る』選択肢が残されているのです」(同前)

 

 とはいえ、50代は、人生でもっとも支出が重なる時期でもある。

 

「住宅ローンや教育費が重なるなか、必死で家計を支えている世代です。手術をあきらめて痛みを放置し、現場を離れる人が増えれば、社会全体の損失になると思います」(同前)

 

 子供の学費か、自分の治療か――。今後は、そんな選択を迫られかねないのだ。

 

取材/文・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)

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出典元: 週刊FLASH 2026年3月3日・10日合併号

著者: 『FLASH』編集部

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