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『永遠の0』『シン・ゴジラ』…軍事専門の監修者どうしてこの道に?

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.04.27 11:00 最終更新日:2018.04.27 11:01

『永遠の0』『シン・ゴジラ』…軍事専門の監修者どうしてこの道に?

 

「撮影現場では時間が勝負。兵士のリアリティを保ちつつ、撮影の進行を邪魔しないこと。この中間を取るのが私たちの仕事です」

 

『永遠の0』(2013年)や『シン・ゴジラ』(2016年)、『亜人』(2017年)など、数々の大作映画に裏方として関わってきた越康広さん(54)はそう語る。

 

 彼の肩書きはミリタリー・アクションディレクターだ。映画やドラマに登場する自衛隊や警察の特殊部隊がらみの演技指導や、装備品の監修、一部キャスティングなども行う。旧日本陸海軍兵士の敬礼、行進、銃の構え方まで、その内容は多岐にわたる。

 

「たとえば、兵士が足に巻くゲートル。戦時中が舞台の映画やテレビドラマで、映像に映るのが上半身だけであれば問題ありませんが、足下も映す場合は正しい方法で巻かなければなりません。

 

 撮影現場では、兵士のエキストラ20人に対して衣装さんや持ち道具さんが1人ということも少なくない。代わりに我々が役者を指導し、自分で巻けるようトレーニングするのです。本当に時間がないときは、我々スタッフが速攻で巻きますが(笑)」 

 

 軍事指導のほか、タレント・俳優のマネジメント業務と同時に、自ら俳優としても活動する越さん。代表を務めるプロダクション「ビッグファイタープロジェクト」を1996年に設立した。「警察関係の監修を専門とする会社は複数あるが、軍事専門はめずらしいのでは」と説明する。

 

 芸能界との接点は、幼少期にまでさかのぼる。歌手になりたかったという母親の希望により児童劇団に所属。舞台、キャラクターCMのエキストラなどを務めた。
 その後、芸能活動からいったん離れ、高校卒業後は先輩の薦めで陸上自衛隊に入隊。練馬駐屯地に勤務し、106mm無反動砲を載せた特殊車両の操縦士や中隊長専属操縦手などを担当し、9年間所属した。

 

 自衛隊を辞めたのち、教材のセールスマンなどを経て、知人に紹介された芸能事務所の手伝いをするように。仕事内容は新人発掘やアイドル歌手のマネジメントだった。

 

「あるとき2人組の女の子が、直訳すると『天使の戦士』という意味にあたるデビュー曲を出すことになり、防衛庁(現在、防衛省)に売り込むことを思いつきました。陸上自衛隊の広報担当者が快諾してくれ、青森・伊丹・小倉と各駐屯地のイベントを3日間はしごしたこともありました」

 

 ほどなくして独立。初めは経験のあった秋葉系アニメ・アイドル歌手のマネジメントが主だったが、1999年に映画業界と接点を持つことになる。

 

「麻生幾原作の『宣戦布告』が映画化されることになったのですが、“北の国” が日本に上陸して戦闘になるという内容だったため、自衛隊に協力を断られたそうです。そこで『自衛隊出身で、陸上自衛隊の指導ができ、なおかつ役者ができる人間』を探すことに。業界のつながりで元自衛官だった私に声がかかりました。兵士役として出演し、現場で初めてエキストラの指導も行いました。これが映画に携わるきっかけです」

 

 20年近く映画やドラマの現場で、アドバイザーとして活躍してきた。特に印象に残っているのは、故・深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』(2000年)だ。

 

「兵士が教室に行進してくるシーンがありました。現実は止まるときに声で号令をかけるのですが、深作監督は『手の合図で停止させる』と、画にこだわりしました。

 

 20人程が行進すると当然、後ろの人間は前が確認出来ません。現場ではカメラの見えない位置で、合図をかける人間を配置しました。それでもなかなかうまくいかず、本番で20回ほど繰り返したのを覚えています」

 

 深作監督ならではのエピソードも。

 

「撮影が朝まで延びることも当たり前。長時間の撮影で、俳優・スタッフともに疲れもピークに来ており、気持ちがだれてくることもありました。すると突然監督が机をひっくり返して、現場の雰囲気に喝を入れるのです」

 

 近年は、中国映画での制作協力も行っている越さん。世界的名監督である、チャン・イーモウと『The Flowers Of War』(2011年、日本未公開、主演クリスチャン・ベール)で現場を共にした。

 

「彼はもともと役者だけあって声がすごくいいんです。撮影中は私をモニタールームに入れてくれて『日本軍の動きで違うことがあったらその場で言ってくれ』と。作品づくりに対してもやはり意欲的でした。

 

 現場で面白かったのは、監督の周りに美人でかわいい女性スタッフしかいないこと。テントの中にいつも5人ぐらいいましたね。そのうち1人はいつも携帯ゲームをやっている。どうやら監督の世話係だったらしく、食事休憩のときだけピタっとゲームをやめて、監督のご飯や飲み物を持ってくるんです。

 

 また、チャン・イーモウは中国で映画学校の顧問もやっているのですが、そこから選抜されたであろう女優が出演していたため、お礼の挨拶に来ていました。みんな美人でかわいい子ばかり。なんじゃこれと思いましたね」

 

 新人の発掘や若手俳優の育成にも力を入れ、定期的にミリタリーアクションのワークショップを開催している越さん。

 

「これからの目標は、自分のプロダクションから千葉真一さんや真田広之さんのような、アクションも演技もしっかり出来る役者を輩出することです」

 

 夢を実現させるその日まで、奮闘は続く。

 

こしやすひろ
1963年生まれ 芸能プロダクション「ビッグファイタープロジェクト」代表取締役。『鋼の錬金術師』『進撃の巨人』『図書館戦争』など、数々の映画やドラマで軍事指導をおこなう。

ワークショップの詳細はhttp://bfp54.com/まで

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