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「グリーフケア」という言葉をご存じだろうか。グリーフケアとは、一般的に、死別に直面し深い悲しみを抱えている人へのケアを意味する言葉として用いられている。類語には、遺族ケア、グリーフサポート、死別ケア(ビリーブメントケア)などがある。
多死別社会の到来に加え、単独世帯の増加や地域コミュニティの崩壊などにより、死別後の家族内や地域での支え合いの力が弱まっていることを背景に、グリーフケアへの関心が高まっている。
日本では、1980年代頃から遺族を支援する市民団体の活動や、終末期医療における家族・遺族へのケアの取り組みが始まり、グリーフケアという言葉は2000年代以降、広く用いられるようになった。
近年では、医療分野をはじめ、宗教界、葬儀業界、自治体、学校、警察、民間団体、当事者組織など、さまざまな領域でグリーフケアの実践が模索されている。
グリーフケアをめぐる動きが活発化するなか、AIを使った新サービスも登場してきた。
昨今のデジタル技術の進歩はめざましく、死者との再会ももはや絵空事ではなくなりつつある。2020年2月、韓国の放送局によって、仮想現実の世界で母親が亡くなった6歳の娘と涙ながらに「再会」するドキュメンタリー番組が制作・放映され、ネット上でも公開されて世界的な反響を呼んだ。
日本でも、2019年に放映されたNHKの番組『復活の日』において、テクノロジーを活用して亡くなった人を再現し、生きている人と会話するというプロジェクトが行われた。
死者にまつわるテクノロジーとしては、2000年代に登場したバーチャル墓地やサイバー記念碑などがある。これらのサイトでは、訪問者が電子掲示板に故人へのメッセージを書き込み、オンライン上でその死を悼むことができる。フェイスブックやインスタグラムでは、故人が生前に投稿した写真や動画、コメントなどを死後も閲覧できるサービスが提供されている。
こうしたテクノロジーを活用したグリーフケアは「グリーフテック」と呼ばれており、現在ではAI技術を用いて「故人との会話」を実現するビジネスも始まっている。現代版の「イタコ」ともいえるようなサービスである。
はたして故人と会話できるAIサービスを、皆さんは利用したいと思うだろうか。
このテーマについて、私が担当する授業で大学生たちに考えてもらった。全体としては、こうしたサービスの利用を望まない学生の方が多く、さまざまな懸念が挙げられた。彼らの意見を集約して、いくつか紹介したい。
「私が死んだ後、思ってもいないことをAIが勝手に憶測して、あたかも私がそう思っているかのように話すことを想像すると不快。反論できない状況で発言を捏造されるようなもので、故人の気持ちがないがしろにされかねない」
「自分の中にある故人との思い出や記憶が、AIによって塗り替えられてしまうのではないかと心配。その人との記憶はそのままで心の中にしまっておきたい」
「AIの答えが“本人っぽい”と思えても、“本人だ”とは思えない気がする。いくら技術が進んでも、AIは故人を完全に再現することはできないのではないか」
「AIとの会話の中で、故人なら“絶対そんなこと言わないのに……”という言葉が出てきたら、生前の故人とのギャップにショックを受けるかもしれない。自分を非難するような言葉に深く傷ついたり、事実ではないことを言われて戸惑ったりすることもあると思う」
「このサービスに依存し、現実の生活に戻れなくなる人が出てくるのではないか。故人に会いたくて、早く死にたいと思うようになる人もいるかもしれない」
「死後も話せたり会えたりするようになると、死を軽視することにつながるのではないか。死があるからこそ、生きている今の時間を大切にしようと思えるはずである」
生成AIの活用が急速に広まる中、現在の大学生にとってAI技術は身近な存在となりつつある。それゆえに、彼らはAI技術の限界や課題について冷静に受け止めているのかもしれない。
一方で、利用を希望する学生も少数ながら存在し、特定の故人との会話を望む声が印象的であった。
「感謝の気持ちを言えないまま、祖父は亡くなってしまった。当時伝えられなかった言葉をかけて、きちんとお別れがしたい」
「祖母の声を聴きたい。時が過ぎていく中で記憶が薄れ、声を忘れてしまうことが怖い」
「落ち込んでいるときや悩んでいるときに、故人の声で励ましてもらえると元気が出る。嬉しいことがあったときに一緒に喜んでくれるだけで、喜びが倍増すると思う」
こうした故人との会話にとどまらず、将来的には、生前の故人に関する膨大なデータを取り込み、仮想空間に故人のデジタルクローンを再現し、VRゴーグルを通じて遺族と再会できるようなサービスが登場する可能性もある。
現時点では、こうした技術に対して違和感を覚える人は多いであろう。日本人遺族を対象とした最近の調査では、デジタル空間での故人との再会を希望する人は2割弱にとどまり、仮想現実の世界で故人を蘇らせることを望む人は1割未満と報告されている。とはいえ、故人との会話や再会といったサービスを強く希望する遺族が一定数存在するのも事実である。
今後、遺族の要望に応える形で、最新技術による死者に関するさまざまなサービスが続々と登場することは十分に予想される。こうしたサービスによって精神的に救われたと感じる遺族もいるだろう。
しかし、故人との会話や再会が遺族の心理過程に与える影響は未知数であり、遺族の求めに無条件に応じることが、必ずしも望ましい結果につながるとは限らない。むしろ、死の現実を受け止めることを妨げ、故人への執着を助長し、悲嘆の長期化につながる懸念もある。遺族へのグリーフケアの観点から、新しい技術やサービスの功罪について慎重に検討していく必要がある。
また、死者をめぐる新たなサービスの広がりは、死に関する既存の価値観や社会規範に大きな影響を及ぼしかねない。こうしたサービスを利用するか否かの判断は当事者に委ねられるべきだが、私たちの社会の中で、どこまでのサービスを許容するのかについて、十分な議論が求められる。
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以上、坂口幸弘氏の新刊『人は生きてきたように死んでいく 「死の準備」してますか?』(光文社新書)をもとに再構成しました。臨床死生学・悲嘆学を専門とする著者が、死に関する研究データなどをもとに、現代における死との向き合い方を考察します。
●『人は生きてきたように死んでいく』詳細はこちら
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