
認知症の最大の発症リスクは「老化」です。つまり、長く生きれば生きるほど認知症を発症する確率が高く、しかも老化を予防する方法はありません。どんなにアンチエイジングに励んでも、今のところ老化を防ぐことはできない。超長寿時代を生きる私たちにとって、認知症の発症はいわば宿命なのです。
それでは、発症リスクを低減することは、できないのでしょうか?
認知症には原因疾患が数多くありますが、中でも最も多いのがアルツハイマー病で、これが全体の6割以上を占めるといわれています。そのほかに、脳梗塞や脳出血などが原因の脳血管性認知症、レビー小体というタンパク質が脳に溜まるレビー小体病などがあります。
認知症の中で最も多いアルツハイマー病は、アミロイドβやタウという異常なタンパク質が脳に蓄積することで発症しますが、発症にはアポリポ蛋白Eという遺伝子も関わっていることがわかっています。アポリポ蛋白Eにはいくつかの型があって、多くの人はE3を持っていますが、E2を持っている人はアルツハイマー病になりにくく、E4を持っている人はなりやすいという違いがあるのです。
つまり、E4を持っている人は認知症を発症するリスクが、持っていない人よりも高いのですが、E4を持っている人がビタミンCやEを多く含む食品を摂ると、E4を持っていて何もしない人に比べて、認知機能低下のリスクが低減することがわかっています。
生活習慣を改善すると、予防できるとまではいえないものの、発症リスクが低減できるわけです。ただしE4を持っていない人では、ビタミンCやEを多く摂ってもリスク低減効果は見られませんでした。
ところで、このように書くと自分のアポリポ蛋白が何型か調べようと考える人が出てくるのですが、それを調べることを私はお勧めしません。もしもE4という結果が出た場合、認知症の予防法や治療法がない現状では、不安が増すだけだからです。
■幼少期の教育が不十分だと認知症になりやすい?!
認知症の発症には遺伝子だけでなく、食事や運動などの生活習慣と、それに関連して生じる糖尿病や高血圧などの生活習慣病も関わっていると考えられています。
世界的に権威のある医学雑誌『ランセット』の常任委員会による「認知症予防、介入、ケア報告書 改訂版」(2024年)によれば、いくつかの危険因子が取り除かれた場合、合計で45%の認知症の症例が、発症を遅らせたり軽減したりできる可能性がある、としています。
まわりくどい言い方ですが、要するに、発症を予防することはできないけれど、リスクをトータルで45%軽減できる可能性がある、ということです。
その危険因子とは以下の通りで、各パーセンテージは、その危険因子が取り除かれた場合に、認知症発症のリスクがどの程度軽減するかを示しています。
●幼少期(0~18歳)
少ない教育:5%
●中年期(18歳~65歳)
難聴:7%、LDLコレステロール値の高さ:7%、うつ病:3%、外傷性脳損傷:3%、運動不足:2%、糖尿病:2%、喫煙:2%、高血圧:2%、肥満:1%、過剰なアルコール摂取:1%
●晩年期(65歳以上)
社会的な孤立:5%、空気汚染:3%、視覚の喪失:2%
わかりにくい項目について簡単に説明しましょう。
まず幼少期の「少ない教育」、すなわち子どものときの教育が不十分であるとは、神経ネットワークが最も発達する大事な時期に、神経ネットワークを十分に発達させられないということです。
その結果、脳が何らかのダメージを受けたときに、それに代わって働く神経ネットワーク、すなわち脳の予備力が育ちません。すると認知症になったときに、脳細胞の減少を補完することができず、症状が早く現れると考えられているのです。
また、教育が不十分な子どもたちには、たとえば開発途上国や貧困家庭で育って栄養状態が悪かったり、親の健康への知識が足りずに偏った食事を続けていたり、病気やけがへの対応が不適切だったりすることもあり、これらも認知症のリスクを高めます。
さらに最近、「思春期に、短時間でスイッチングするSNS(インスタグラムやXなど)を長時間見ていると、前頭葉が十分に発達せず、将来認知症を発症するリスクになる」と、東北大学の加齢医学研究所が発表しました。
中年期の「難聴」は人とのコミュニケーションが減ることによって、「LDLコレステロール値の高さ」「外傷性脳損傷」「高血圧」などは、血管や脳へのダメージが大きいことで、認知症のリスクが高まることを示しています。
晩年期の「空気汚染」は、PM2.5や二酸化窒素の多い、大気が汚染された環境では、認知症発症者が多いという事実があるためです。
危険因子個々のリスクは低いので、どれか一つを改善しても、効果がどれほどあるかは疑問です。とはいえ、生活習慣とは本来そういうものですし、今のところこれ以外に認知症のリスクを軽減する方法はないわけです。
■子どもの数と認知症の人の数が逆転
あなたは、日本全体で認知症の人がどれくらいいると思いますか?
認知症のある高齢者は2025年の時点で471.6万人、軽度認知障害(MCI)の高齢者は564.3万人、合わせて1035.9万人と推計されています。高齢者における有病率は、認知症が12.9%、MCIが15.4%です。MCIとは、認知機能が年相応よりも低下しているものの、日常生活が自立しているため、認知症とは診断されない状態です。
認知症高齢者とMCI高齢者を合わせた人数は、2030年に1116.2万人、2040年に1197.0万人、2050年に1217.8万人と、徐々に増えると考えられています。
一方、0~14歳の子どもたちの人数はどうかというと、2030年には1239.7万人、2040年に1141.9万人、2050年に1040.6万人と、徐々に減っていきます。その結果、2030年の時点では子どもたちの数が認知症・MCI高齢者の数を上まわっているものの、2040年には逆転し、2050年にはさらに差が広がっています。
25年後の2050年には、今小学生の子どもたちが30代で、彼らの子どもが小学校に上がる頃。両親が60代、祖父母が90代といったあたりでしょう。今の子どもたちが子どもを持つ頃の未来は、認知症・MCI高齢者の数が子どもの数を遥かに上まわった社会になると、予測されているのです。つまり、街で子どもを見かけるよりも、認知症・MCIの人を見かけることの方が多いということ。
そのような社会で大事なことは、お互いを尊重し、共生していくことです。そしてそのためには、認知症の人に偏見を持ってしまう前、子どもの頃からの教育によって、認知症や認知症の人についての正しい知識を身につけることが大事です。
超長寿時代とは、誰もが認知症になる時代であり、認知症の人を知ることは、将来の自分を知ることでもあるのです。
※
以上、佐藤眞一氏の新刊『お医者さんはなぜ「がんで死にたい」と言うのか? 超長寿時代の老いと死を考える』(光文社新書)をもとに再構成しました。我々は超長寿時代をどう生きるか? あるいはどう死ぬか?
●『お医者さんはなぜ「がんで死にたい」と言うのか?』詳細はこちら
![Smart FLASH[光文社週刊誌]](https://smart-flash.jp/wp-content/themes/original/img/common/logo.png)







