フランスで続く「黄色いベスト」運動(写真:ロイター/アフロ)
化石燃料は今なおエネルギー源の主流だが、世界のエネルギー供給におけるその割合は、気候変動対策により将来に向けて減少すると見込まれる。特に、化石燃料の中でも温室効果ガスの排出が多い石炭の使用は、今後減っていくのが世界全体の傾向となろう。
その減少幅は前提の置き方によって大きく異なるため一概には見通せないが、国際エネルギー機関(IEA)が2025年に発表した試算によると、一次エネルギーに占める化石燃料の割合は現在の80%から2050年頃には66%まで減少すると見込まれる。
なかでも石炭は大きく減少する見通しで、その割合は2024年の27%から2050年には17%へ低下すると予想される。石油の使用量も今後減少していき、一次エネルギー全体に占める割合は現状の30%から2050年には26%に下がるというのが、IEAの見立てである。
同じ化石燃料でも、温室効果ガスの排出が比較的少ない天然ガスは、石炭や石油に比べて相対的に重要性を増しそうだ。IEAは、一次エネルギーに占める天然ガスの割合は2030年代半ばには石炭を抜き、2050年時点で23%を占めるようになると予測する。
一方、再生可能エネルギーが占める割合は、2024年の13%から2050年頃には26%へ拡大すると予想される。なかでも太陽光は2050年に一次エネルギーの8%、風力は4%を占めそうだ。バイオエネルギーや水力発電も含め、再生可能エネルギーは拡大が見込まれる。
こうした脱炭素に向けた化石燃料への依存低下と再生可能エネルギーの普及は、社会経済のあり方に大きな変化を迫るものである。脱炭素化は、途上国のみならず、むしろ化石燃料に大きく依存した多くの先進国にこそ強く影響するだろう。
■「緑のインフレ」とは何か
特に、脱炭素化が国内社会にもたらす影響として、物価上昇が懸念されている。気候変動に伴う物価上昇は、異常気象や気象災害による食料生産への影響だけで起きるのではない。脱炭素化など気候変動対策による物価上昇もあるのだ。
脱炭素化が物価上昇を招くシナリオはいくつかある。一つは、石炭、石油、天然ガスの供給が減少する一方で、再生可能エネルギーへの転換がうまく追いつかないと、エネルギーの需給バランスが崩れて、その価格が高騰してしまう場合だ。
実際2021年には、新型コロナウイルス感染症収束に伴うエネルギー需要の急拡大に対し、脱炭素化の流れの中で化石燃料の供給が追いつかず、世界的にエネルギー価格が高騰した。
エネルギー価格の高騰は、暖房光熱費や輸送費の上昇といった直接的影響のみならず、それに伴う食料品その他様々な商品の価格上昇という間接的影響も相まって、多くの人々の生活条件を悪化させる。
また、今後多くの企業が温室効果ガス削減のための技術や設備へ投資を進めたり、温室効果ガスの排出量に応じて重い炭素税が課されたりしていけば、その費用が価格に転嫁されて「緑のインフレ」あるいは「グリーンフレーション」が起きるとも考えられている。
日本でも2026年から、企業に二酸化炭素排出のコスト負担を迫る排出量取引制度が本格始動した。
アラブの春のように、気候変動に伴う物価高騰が暴動に結びつくリスクもある。歴史をひもとけば、物価高騰が暴動や紛争に結びついた事例は枚挙に暇(いとま)がない。
国際的にエネルギー価格が急騰する場合、日本のようなエネルギー輸入国には特に物価上昇の圧力がかかる。そうしたエネルギー輸入国に財政的な余力があれば、国内向けの燃料補助金などで国際価格の高騰を吸収し、国内の安定を維持することができる。
しかし、政治的に不安定な国や政府の対応力が限られる国では、エネルギー価格の高騰が国内で暴動を引き起こす可能性が高くなる。
例えば、2005年にインドネシアでは燃料価格が29%上昇し、食料品やバス料金などの生活費が上がって、首都ジャカルタや各地の主要都市で大規模な抗議行動が発生した。また、ガーナでも、2003年に燃料価格がひと月で90%も上昇した際、労働者が賃上げを求めて街頭に繰り出し激しく抗議する事態となった。
エネルギー価格の高騰が国内不安を高めるのは、途上国に限ったことではない。世界157か国について2003年から2015年までの国内燃料価格月次データを分析した研究によれば、エネルギー価格の高騰は途上国のみならず先進国においても抗議行動の発生確率を高めることが、統計的に明らかにされている。
特に、脱炭素化を目的とした炭素税導入や燃料補助金削減は、先進国でも時に暴力的な抗議行動を引き起こしてきた。
例えば、2018年にフランスで発生した「黄色いベスト運動」では、炭素税によるエネルギー価格の高騰などに抗議した数十万人の市民が、フランス全土で暴動に参加した。首都パリでも抗議者が街頭で放火や破壊行為に及び、それを警察が催涙ガスと高圧放水砲で制圧する騒ぎに発展した。
その結果、パリだけでも1日で135人が負傷し1000人近くが拘束されたほか、別の街では警察の放った催涙ガス弾や抗議活動に関連した事故のために複数の死者が出る事態にまでなった。
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以上、関山健氏の新刊『気候紛争 たった「2℃」が起こす戦争』(光文社新書)をもとに再構成しました。気候変動対策がもたらしうる国内紛争や国家間の対立、そして軍事に与える影響を考えます。
●『気候紛争』詳細はこちら
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