「『ボタンを押すだけで、すべてをやってくれる、完全な自律自動運転』は遠い話。テストコースなどでおこなわれた実証実験は可能でも、市販化などはそれほど簡単ではないでしょう」
そう語るのは、交通コメンテーターの西村直人氏。SAEの定義による自動運転レベル5は、何もしなくてもシステムが安全に自動車を運転し、人間が関与する余地はない。しかしその実現には、ダイナミックマップ(高精細な3次元地図と動的な位置情報を組み合わせたデジタル地図)や交通インフラの整備も不可欠だと指摘する。
「道路網の新たな整備に加え、車両と車両が通信をおこなう『車車間通信技術』、道路と車両が通信をおこなう『路車間通信技術』など、自律自動運転を支えるための技術の普及が、車両よりも先に求められるからです」
また西村氏は、「自動運転」という言葉に対して、人々が抱く過信について、警鐘を鳴らす。
「もちろん、各社が装備している運転支援技術は、運転中のストレスを減らし、ヒューマンエラーをなくすためにも重要です。しかし、勝手に走ってくれるだろう、必要ならば自動車のほうで止まってくれるだろう、という思い込みは非常に危険です。運転に、人と機械の調和は不可欠だと思います」
じつは2018年、自動運転の世界に大きな変化が起きようとしている。量産車で世界初の「レベル3」の技術を搭載したアウディ「A8」が、年内にも日本国内で導入予定。法整備の問題はあるが、そうなると、本格的な自動運転時代の幕開けになるといってもいい。
「私も、公道上での実証実験が許されているレベル3~4の自動車の試乗や、開発者の取材をしました。見通しのいい道路でのハンドル操作やアクセル操作、ブレーキ操作は、取得が難しいといわれる大型自動車第二種免許の試験でも、軽々とクリアできそうなレベルでした。
しかし一方で、混雑した車線への合流などが難しかったり、歩行者や自転車などの認識が完全でなかったり、という部分も見受けられました。やはり自動車はドライバーと関わり、なにより移動を楽しむものであり続けるべきだと思います」(西村氏)
目をつぶっていても目的地へ運んでくれる時代が来るかもしれない。しかし人間が自動車に対し、最低限の制御と管理に関わることは、必要だ。
(週刊FLASH 2018年5月29日号)