
保利澄香行政書士事務所代表の保利澄香(ほり・すみか)さん(写真・保坂駱駝)
「行政書士会には“まだ”怒られてないです!」
そう笑うのは、保利澄香行政書士事務所代表の保利澄香(ほり・すみか)さん。現在27歳だがスタッフを10人以上抱え、さまざまな法的案件を解決している敏腕行政書士だ。
プロフェッショナルとしてしっかり受け答えしつつ、ニコニコと楽しそうに当意即妙の返しをする保利さんには、もうひとつの顔がある。Xアカウント「元吉原嬢 行政書士のまなちゃま」名義で、吉原などでの6年間のソープ嬢経歴をあまさず開示。その経験を生かし、行政書士として夜職の女性たちの相談に応じ続けているという。
「『まなちゃま』のアカウントでは、ほかのユーザーと舌戦してたりするので、悪目立ちしてるとは思うんですけど(笑)。行政書士会には、まだ、ギリ怒られてないです。事務所のホームページでは、婚前契約書の作成についてがメインに見える作りになっていますが、実際は行政書士としては、農地転用や再生エネルギーなどのゴリゴリ硬めの仕事が多くて、単価が1件数百万単位の、難易度高めの分野のほうが得意です。
ただ、自力で稼いだお金で自分の大学の学費から何から、全部出してこられたのは、吉原の人たちのおかげ。だから、恩返しと言いますか、婚前契約や告訴状提出など、夜職の女性にも寄り添える仕事を押し出しているんです」(保利さん・以下同)
匿名掲示板などでの誹謗中傷投稿や、お店とのトラブル、DV、貸したお金が返ってこないなどの事案に対し、弁護士と連携して、告訴状代行する仕事も積極的におこなっている。
「それらの仕事は、売り上げの2割くらいですけどね。私も名前を出してやっているので、匿名掲示板とかでたたかれてるだろうなと思って、怖くて自分の名前でエゴサーチとか、できないです(笑)」
そもそもなぜ、吉原のソープ嬢から行政書士へと転身をとげたのか。彼女の過去を聞いた。
「実家は秋田県です。両親がそれぞれ開業医の家庭でした。ただ、何ていうんですかね、ちょっと変わった両親で……。たしかに、生活で困ることはなかったんですけど、父は気分の波が大きい人、母は対人関係に問題があるようなタイプで、つねにけんかしているような家だったんです。私は、家族が嫌で嫌で仕方がなくて……。
子どものころ、私はちょっとぽっちゃりしていたんです。その見た目を家族から『デブ』と言われ続けたり。中学に上がるくらいになると、色つきのリップとかが欲しくなるじゃないですか。すると母に『また、色気づいて』って言われて、捨てられたりとか。私には兄がいるんですけど、その兄もめちゃくちゃ意地悪なんですよ。家族に対して、あまり安心感がない状態だったんです」
お嬢様育ちは間違いないが、家族は“機能不全”気味だったようだ。保利さんは、そこで家族と戦うのではなく、脱出することを選んだ。
「高校進学のとき、寮つきの学校を選んで、神奈川へ進学し、秋田を出たんです。でも、その高校もいろいろ事情があって辞めてしまいました。17歳になるころから、ふらふらする生活が始まったんです」
ファッションモデルなどのアルバイトをしながら暮らしていたが、SNSで自ら風俗スカウトを探して、ソープランドで働くことを決めた。
「とにかく、自分だけで生きていこうと思って、19歳になるころ、母親に電話して『私、ソープで働く』って宣言したんです。そうしたら『あ、そう。そうしな』って言われて。父にも電話したら『いくら稼げるの?』と聞かれて。スカウトの人からは月に100万から200万円って聞いてたので、そう答えると『それしか稼げねえのか』と。どちらも反対するとかもなく、『勝手にすれば?』って感じだったんですよね。親に夜のお仕事を告白すると、勘当されるとかも聞くじゃないですか。でも、我が家の場合は完全に“放置”だったんです」
スカウトからは「格安ソープでダントツに売れたほうが稼げる」と聞いたため、川崎の格安店に入店を決めた。
「稼ごうと思って入ったんですけど、ちょっと客層が独特で。まず、お客さんに歯がないのは当たり前(笑)。ウイスキーを瓶で飲みながら階段を登ってきたり……。シンプルに怖いんですよ。そのお店はすぐ辞めてしまったんですけど、20歳にならないと吉原では働けないんです。それで、川崎で次のお店を探してたら、路上スカウトに声をかけられて。お店の名前を出したら『格安店じゃん、高級店の面接行く?』って言われ、それで行ったら受かったんです。そこから1年くらいは、川崎の高級店で働いてました。ただ、お店が厳しかったんですよ。たとえば、出勤するときにスウェット着用禁止。お店に入るところを見られたときに、お客さんが指名したくなるような格好で来いって言われていて。指名本数もバーッと張り出されて、いわゆる『軍隊店』っていうところで、けっこうキツくて、20歳になるタイミングで辞めたんです」
同時期に、保利さんはソープで稼いだ金で大学を受験する。高校中退だったが、卒業に必要な単位は取得していたため、あっさり大検に合格。受験資格を得て、慶應義塾大学法学部に一般入試で入学した。ちなみに、親からの援助はいっさいなかったので、すべて自費だ。
20歳になった保利さんは、大学生活もしっかり続けながら、吉原に移籍した。
「吉原の高級店で、3年くらいお世話になりました。お店の人はめちゃくちゃ優しくて。当時は慶應に通いながらお店に出てたんですけど、コロナ禍だったので、授業がほぼリモートだったんですよ。そうしたらお店の人が『Wi-Fiがあると便利だよね』って、導入してくれました。そのころは、まったく顔出しはしてなくて、大学の人にはぜんぜんバレませんでした。派手なブランドものとかも好きではないので、普通の大学生として通っていましたね。月に300万円は稼いでいました」
当時、保利さんは司法試験を受けようと、司法予備試験を受けていた。ゼミなどにも通い、勉強しながらソープで働く日々。保利さんは、客に甘えるのがうまいタイプだったと自身を分析する。そして、ついた客には慶應法学部在籍と、普通に明かしていたという。
「お店の写メ日記にも『今日学んだ法律のこと』とか書いてたんですよ(笑)。エッチな内容じゃなくて、ひたすら法律のことを書いていると、法律をやってる人が来てくれるんです。大企業の法務部の方だったり、弁護士さんだったり。それで『疑問だって書いてた、ここなんだけど』とか、生解説しに来てくれるんです(笑)。文献とか本を持ってきてくれて『付箋貼っといたから、読んでみるといいよ』とか。私もそれに対して『じゃあ、読んでレポート書きます。宿題にしてください。次、いつ会えますか?』って、次につなげるみたいな(笑)。太客になってくれて、定期的にレポート確認に来てくれました。でも、1枠120分でそういうことをやっていると、時間が足りなくなってきちゃって。そうすると、2枠取るよ、3枠取るよって言ってくれて、プレイとかもとくにせず、法律談義を延々してたりしました。大学のレポートも、分からないところは聞いてましたし、『いいよ、俺が書くよ』って書き出す方もいました(笑)。自分専用の教授がいっぱいいるみたいで、ラッキーでしたね」
この法律談義の日々が功を奏したのか、司法予備試験の1次試験にも受かってしまった。
「マークシートの試験に受かったんですけど、その時期に出勤すると、お客さんに怒られたんですよ。『何してるんだ、勉強しろ』って。でも、出勤しないと落ち着かないし、お金稼ぎたいからって言ったら、『じゃあ、俺が枠買い取るから、家にいろ』って言い出して(笑)。12時間とか買ってくれて、私は出勤しないで給料もらって、みたいなこともけっこうありました。いまから4〜5年前、22〜23歳くらいのころでしたけど、お金持ちのお客さんが多かったですね。試験当日も『その日の枠を買う』っていうお客さんが4人くらい出て、私は出勤もしていないのに、売り上げ100何万円、みたいな。お店側は『うまくやるねー』って言ってました(笑)。お店も、私はいないから部屋を使わなくていいし、お客さんも振込で支払ってくれるので楽。だから、お店にもかわいがってもらいました。恵まれてるなあと思ってましたね」
大学は4年で卒業し、司法試験合格まではソープを続けようと、就職しないで吉原に在籍し続けた保利さんだったが、25歳になるころ、吉原の女性の宣材写真や、営業用のポートレートを撮る会社を始めたのが、大きな転機になったという。
「撮影のスタジオ代もかかるし、機材費もかかる。カメラマンさんを雇って、スタッフも……ってやっていたら、お金がガッツリなくなっちゃったんです。それで『もうヤダッ!』って思ったのと、いろいろなことに対するあせりもあって、自分が何もないままに年を取っていくのが怖くなったんですよ。それで、司法予備試験の1次試験って、行政書士試験と似ているので、がんばったらいけるかな、と思って」
そうして保利さんは、会社を経営しながらソープ嬢も続け、行政書士試験にも挑むことに。
「そのころは、お客さんに好き勝手言ってる“Sキャラ売り”だったんですよ。『私の言うこと、聞いて!』みたいな。お客さんに目隠しと手縛りを頼まれたら、縛って目隠しして、放置しながら、テキストで行政書士の勉強してました(笑)。でも後々聞いたら、気づかれてましたね。そんな優しいお客さんにも恵まれて、おかげで行政書士を受けたら合格したんです」
25歳にして、ソープ嬢兼行政書士が誕生したのだが、ここで一度、時間を吉原に入った20歳のころに戻そう。じつはソープ嬢兼大学生活と同時進行で、結婚という人生の一大事も巻き起こっていたのだ。
「私、いまはバツ2で、3回めの結婚も離婚調停中なんですよ。最初の結婚が20歳のころでした。マッチングアプリで出会った外資系コンサル企業の人で、15歳上でしたね。自分の家庭環境のこともあって、結婚できるとは思っておらず……。でも、結婚したこともないくせに『結婚なんて』みたいに言うのは嫌だな、と思って。知り合いのスナックのママに協力してもらって、彼にガンガン飲ませて、結婚情報誌についていた婚姻届をその場で書いて、そのまま出しに行ったんですよ(笑)。昔から私、押しが強くて。そこから5年、結婚生活してたんですけど、ソープ嬢ってことは隠していて、結局、バレませんでした。私のことは法律事務所でバイトしている大学生だと思ってましたね。離婚したのは、彼が海外赴任することになって、急に『(一緒に)行くよね』って言われたんです。それで、行くのはいいけど、事前に相談してほしかったと思って、いじけちゃって。そこからすれ違いが多くなって、そのまま離婚に。引っ越しみたいな感覚で離婚してるんですけど、彼はすんなり了承してくれました。でも海外赴任してないんですよね、あの人……。何なんですかね(笑)」
5年の結婚生活を経てバツ1となった保利さんだが、すぐに次の結婚となる。相手は20歳になるころにパパ活アプリで知り合い、長く知人だった男性だという。
「2度めの結婚は26歳のときで、相手はまた外資系コンサルの人です。そのとき、お相手は41歳かな。たまたま連絡が来て、久しぶりに会いたいと。離婚したてだったので、『私、いまめちゃめちゃ結婚したい、寂しいから結婚前提なら会う』って言ったら、電話が来たんです。それで、ご飯食べながら『さて、結婚のお時間です』って私が言ったら『いまじゃなきゃダメ?』とか言ってたんですけど、押し切って結婚したんです。でも、3カ月で離婚しちゃいました。共通の知り合いを通じて、許せない裏切りなどが発覚したりと、いろいろありまして。向こうから離婚を切り出されましたね」
さて、バツ2となった保利さんだが、別れると寂しくなってしまう。3回めの結婚へと向かうことに。
「3回めはいま離婚調停中なんですけど、医師の人です。彼もマッチングアプリで知り合って、41歳ですね。それで、彼と一緒にこの家(取材現場)に住み始めたんですけど、彼が2週間で出て行っちゃって。家賃は夫が払ってるんですけど、家にいないのでいまは30歳のヒモと住んでます。いままでは年上に行きがちだったんですけど、もう年が離れてる人は嫌かもって思っちゃって」
話を聞いているだけだと無茶苦茶なのだが、保利さんは大まじめだったりする。ハイスペックな男性との結婚が続くなか、現在のパートナーも「ヒモ」呼ばわりしているが法曹関係者で、仕事ではしっかり連携しているから、ただ単に奔放というわけではないようだ。
「ソープは1年半ほど前までやっていました。それで、いまの離婚調停中の夫と結婚したときに『専業主婦になってほしい』と言われたので、ソープは上がりました。でも、家事などは何もできないので、ほぼ、ただのニートになってしまって。ちゃんと仕事しないといけないなと思って、行政書士の仕事をがんばってやっている、というのが現状です。
ホームページで告訴状依頼を受けつけたら、けっこうバンバンご依頼が来たのと、どうも行政書士業務に適性があったみたいなんですよ。いままで吉原で接していたお客様と、年齢や立場が似た客層なんですよね。中小企業の経営者のおじさまとかが多いんです。そういう社会的地位がある方でも、緊張することなくお話ができるのは、ソープでの経験のおかげかもしれません」
現在、保利さんの事務所にはスタッフが10人在籍。登録手続き中の行政書士が4人、残りは事務員として働いてくれている。「全員を食わせていける分は稼げています」と笑う。
「今後は、ナイトワークの女の子のセカンドキャリア支援なども手がけたいんです。いま、うちの事務所にいる女の子は9割、ナイトワーク出身なんですよ。ソープで働いている子もいるし、銀座のクラブの子もいます。うちの事務所のお仕事のほうが、収入が大きくなっている子もいますし、夜の仕事を辞めた子もいます。その子は辞めたがってたので、私としてはすごくうれしかったです。いま、自分は恵まれた状況にいるので、吉原だけでなく、いろんなナイトワークの方々に還元できればとも思っています」
ソープという“究極のサービス業”経験を生かし、行政書士の世界でも挑戦を続けていきたいという保利さん。経歴を活かし、堂々と看板にしている姿はたくましくもある。
「私は運がよかったと思います。ナイトワークの女の子が事件に巻き込まれたりするのを見るたびに、一歩間違えていたら、これは自分だったなと思うんです。だから、そういう子たちの助けになることを、行政書士としてやっていきたい。弁護士さんや精神保健福祉士、風テラス(弁護士とソーシャルワーカーによる性風俗従事者へ無料相談をおこなうNPO)など、私がつなぐこともできます。そういう“ハブ”になれるのは、本当にありがたいことだと思っています」
波乱万丈な経歴の保利さんの、行政書士の枠を超えた活躍に期待したい。
![Smart FLASH[光文社週刊誌]](https://smart-flash.jp/wp-content/themes/original/img/common/logo.png)







