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建築資材の営業マン5年も職人の手伝いをしながら販路拡大

ライフ・マネー 投稿日:2018.06.28 11:00FLASH編集部

建築資材の営業マン5年も職人の手伝いをしながら販路拡大

 

 夫婦にとって初の、それも待望の男の子だった。しかし、生後2カ月で先天性の心臓病と告げられた。3度の手術の甲斐もなく、息子は7カ月の命を精いっぱい生きて逝った。

 

「私の人生にとって子供を亡くしたことがすべて。その宿命をプラスに転換することができたからいまがある。命をかけて、どう生きるかが大切だということを教えてくれたのだと感謝しています」

 

 小西清久さん(49)、 29歳のときだ。

 

 小西さんの仕事は、漏水やさび止めなどに使う建設用の特殊なプライマー(下塗り塗料で、おもに接着を目的とする)の普及、販売である。

 

 工業用のため一般には馴染みがないが、さび止めの効果から、国営ひたち海浜公園、葛西臨海公園、みなとみらいの大観覧車などにも使用されている。

 

「これまでのプライマーとの大きな違いは、水性ということです。従来品は臭いがきつくて使えない場合がありますが、これには臭いがありません。

 

 本来、水性は油性に比べ密着力が弱いのですが、工業試験場の剝離テストでは、従来品の6倍ほどの密着強度があることが証明されています。

 

 ステンレスやアルミにも完全に密着して、セメントと混ぜても割れません。下地剤として建物のコンクリートの外壁や屋上などに塗ると、10ミリは浸透して固着します。

 

 それ自体が防水になると同時に、弾性があるので、多少揺れてもひび割れはしません」

 

 この商品との出会いは13年前。商品の営業を手伝っていた人から一緒にやらないかと誘われた。仕事上の関係があったマンションの管理会社に紹介したりした。

 

 やがて販売会社が手を引いたため開発者に直接会い、一般市場への独占展開をまかせてもらった。10年前のことだ。

 

「大手ハウスメーカーなどに売り歩きましたが、採用してもらえなかった。長持ちすると、仕事がなくなるとの理由でした。それから商品の営業をやめて、施行例を積み上げることに専念しました。

 

 営業マンでしたが、5年間、漏水の現場などさまざまな現場に入り、慣れない職人の手伝いをしながら、施行例を記録していきました。当初は一日仕事の漏水工事に、5日かかったこともあります。職人さんはすごいと、つくづく思ったものです」

 

 その経験を生かし、これまでできなかったことが可能になると職人たちに説いてまわった。商品の特性だけを説明しても誰も信用してくれない。

 

 しかし、与太話と怒りだす職人も、写真に撮った施行例を見せ、説明すると理解してくれた。

 

 2014年には会社を設立し、販売商品を使った工法の普及と、代理店組織の構築を目指した。

 

「現場で職人さんの大変さ、苦労している姿を目のあたりにしました。それでこの商品を理解してくれて、間違いなく使ってくださる職人さんに直接売ることにしました」

 

 47歳のとき、転機を迎えた。商品の信用と信頼を守るために、パートナーになった職人のみに販売する方法に切り替えたのだ。ただし、パートナーになるための加盟金は一切取らない。 

 

 初めは50社を考えていたが、職人の口コミで全国120社となった。現時点ではこれ以上広げられないが、将来的にはさらに増えそうだ。

 

「パートナーには、これまではできなかった工事が、簡単にできることを喜んでいただいています。それに、さびの上からも塗れるので下地処理の軽減ができて、工期が短くてすみます。

 

 また、職人さんが元請けですから利益も出ますし、見積もりも安くなるので、工事を依頼したお客様にも喜んでいただけます」

 

 職人に限ったのは、いちばん頑張っている人のために何かをすれば、結果的に自分に返ってくるとの考えからだ。営業のフォローや現場の立会いなどで、月の半分以上は全国を飛びまわっている。香港での独占販売権も取り、海外進出も視野に入っている。

 

「儲かるのはこれから。いまは先の楽しみだけでやっています」

 

 自慢話は人にはしないが、亡くなった息子には「やったぞー!」と話すそうだ。心の会話は今も続いている。
(週刊FLASH 2018年7月10日号)

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