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バカなオッサンでも発揮できる「真のリーダーシップ」とは
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.09.18 20:00 最終更新日:2018.09.18 20:00
リーダーには、「支配型リーダー」と「サーバント(支援型)リーダー」がいます。
支配型リーダーが自分の立脚点としているのは、「自身の経験に基づく有能さ」です。前提となっているのは「自分は部下よりも経験・知識の両面において優れている」という認識であり、だからこそ「思考し、命令するのは自分」であり、「命令に従い、実行するのは部下」だということになっています。
しかし、このモデルは環境変化が激しく、過去の経験や業務知識が10年と経たないうちに使いものにならなくなるような時代には、うまく機能しません。
よって、これからの年長者は「サーバントリーダー」を目指すべきなのです。これは、もともと米国のロバート・グリーンリーフによって提唱された概念で、権力に頼らない「支援的なリーダーシップ」という概念です。
サーバントリーダーシップのエッセンスは「支援」です。リーダーシップを発揮してイニシアチブを取ろうという若手・中堅に対して、オッサンならではの人脈・金脈・ポジションパワーを持ち出して、この若手・中堅を「支援する」というのが、まずは「わかりやすいカタチ」です。
つまり、これは「イニシアチブを取って動こうとする若手・中堅」の存在を前提にしたモデルであり、そのような若手・中堅が出現してこないことには、オッサンとしてもサーバントリーダーシップを発揮しようがありません。
サーバントリーダーシップを発揮するためには、別に高度な知性やスキルは必要ありません。わかりやすくいえば、フトコロさえ深ければ、サーバントリーダーは「バカでも構わない」 のです。
明治時代、南極探検隊を組織した白瀬矗と、これを支援した大隈重信の関係性を確認してみましょう。
国際関係の緊張に伴い、資源確保の重要性について考えていた白瀬矗中尉は、それまでどの国も手付かずだった南極にいち早く目を付け、探検隊を送って踏査することを企画、提案します。
当時、イギリスとノルウェーもまた同様のことを計画していたことを考えれば、この白瀬中尉のアイデアは、実に国際感覚に優れたものであったわけですが、残念ながらこの提案は文字どおり「世迷いごと」として受け取られ、挙句の果てに「白瀬は南極に行くより病院に行った方がいい」などと揶揄されてしまいます。
しかし、そんななか、この提案に興味を示す大物が現れます。早稲田大学創設者の大隈重信です。大隈は、周囲からキワモノ扱いされて煙たがられていた白瀬の提案に興味を示し、自身が運動して南極探検を実現させるべく、奔走します。
その支援のレベルがタダゴトではない。
例えば、南極への出発が用船問題の難航で遅延した際には、知人を自宅に招待して白瀬とともに用船確保の説得にあたったり、また自身が会長となる南極探検後援会を発足させ、政財界や新聞社の協力など各方面に支援を呼びかけたりと、まさに持てる人脈・金脈を総動員して白瀬のイニシアチブをバックアップします。
つまり、極めて高水準のサーバントリーダーシップを発揮したということなのですが、この物語から得られる示唆に富んだ教訓はまだあります。
ついに白瀬の念願が叶い、南極探検へと出港するというとき、大隈重信は次のようなアドバイスを白瀬に送ります。
曰く「南極は地球の最南端にある。南洋でさえあれだけ暑いのだから、南極はさらに暑いだろう。暑さにやられぬよう十分に気をつけたまえ」と。
これを聞いたときの白瀬中尉の気持ちはいかばかりであったか、記録に残っていないため、想像するしかありませんが、かなり複雑なものがあったはずです。
この人は、あれほどなにくれとなく自分の探検計画を支援してくれたわけだが、南極というのがどういう場所なのか、まったく知らなかったんだ……と。
このエピソードについて、かつて昭和基地南極越冬隊の隊長を務めた西堀栄三郎は、「イノベーションには大物とバカが必要。とてつもないことを考えるのがバカで、これを支援するのが大物」だと指摘しています。
その上で、日本でイノベーションが停滞している理由については「とてつもないことを考えるバカは大勢いるけれども、これを支援しようとする大物がいない」と重ね、さらに「大物は優秀である必要はない、白瀬中尉を支援した大隈重信は、南極は暑いから気をつけろとアドバイスするほどのバカだった」とまとめています。
つまり、日本からイノベーションがなかなか起きないのは、とてつもないことを考える若手が少ないということではなく、これを大きく支援できる大物、サーバントリーダーシップが欠如していると言っているのです。
昨今の日本では、このような場合、どういうことが起きるかというと、おそらく白瀬中尉の計画について精査し、お門違いの知識や経験を持ち出しながら、「あれはどうなっている、ここはどうするんだ」と重箱の隅を突くようなリスクの洗い出しを行い、結果的に「時期尚早だな、さらなる検討・精査を続けてくれ」ということで潰されるのがオチでしょう。
なぜこのようなことが起きるかというと、リーダーというのは、そもそも部下よりも知識や経験が豊富であり、であるからこそより高品質の意思決定ができる、という思い込みがあるからです。
しかし、繰り返すように、知識も経験もアップデートし続けなければすぐに不良資産化してしまいますから、このような支配型リーダーシップが続く限り、日本でイノベーションを再興させることは難しいと思います。
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以上、山口周氏の新刊『劣化するオッサン社会の処方箋 なぜ一流は三流に牛耳られるのか』(光文社新書)を元に再構成しました。日本社会の閉塞感を打ち破るための画期的な論考です!
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