では、具体的にどう治療を進めていくのだろうか。
「何度でも採取できるように、腹部から米粒1、2粒分の脂肪を採取します。術後、この傷はほとんど目立たず、痛みもほぼありません。所要5分ほどですみますし、抜糸も不要です。また、血液も60ccほど採ります。
そして、無菌室で脂肪から幹細胞を抽出し、血液とタンパク質が入っている培養液を混ぜたものを一緒に専用のフラスコに入れます。そのフラスコを、36.9°C、二酸化炭素濃度5.0%という人間の体内と同じような環境にした機械の中に収め、培養します」(辻氏、以下同)
頭髪治療の場合は、約1億個の幹細胞を頭皮に注射する。脂肪幹細胞は、3、4週間でだいたい5000万個から1億2000万個ほどに増殖するが、数が多くなりすぎると元気がなくなり、役に立たないという。
「培養のスピードには個人差がありますので、数、質ともにベストの状態に育つように培養をしていき治療をおこないます。容器の85%から90%ほどが目安です。生きている細胞ですから、ベストな状態を保存できないのが難しいところ。ここは職人芸ですね」
増殖した幹細胞は、専用のマシンで頭皮に注射していく。その動きは、工事現場で素早く釘を打ち込む電動釘打ち機を彷彿とさせる。
「針は刺すときと抜くときのスピードが速いと、さほど痛くありません。無痛ではないですが。10分ほどかけて、毛が薄い部分を中心に、田植えのようなイメージで約1000カ所に打っていきます。
打つポイントは経験則で、同じところにあえて何回か刺すこともあります。多少出血はしますが、針の刺し込みが浅いので、帰るときには止血しています」
効果に個人差はあるが、治療後に髪の毛が増えたと実感する人が大半だという。
「自己細胞による再生医療ですので、副作用は出ません。また、個人の感覚ですから満足度に差はありますが、効果は出ます。正確には増毛ではなく、毛のまわりの細胞を若くする治療ですので、量が増えるだけでなく、髪の毛が太くなりますし、艶っぽくなるんです。
さらに、脂肪幹細胞治療は頭皮の力をベースアップしますので、脱毛症状態に戻りにくい。そして当院では、結果が出てもまだもう少し増やしたい、と2回め以降の治療を希望する方が多いです。
そのために、培養を始めて2週間程度で一部の幹細胞を凍結保存しておいて、ご希望があった際に随時使用します。費用はかかりますが、1年間保存しておきますので、追加で3回まで治療できます。
一方で、治療に終わりは設定しません。薄毛治療は美容医療が原点ですので、患者さんが満足されたときがゴール。効果を最大化させるご希望があれば、薬やほかの治療との併用もご提案します」(辻氏)
冒頭のA氏は、薬を併用せず、脂肪幹細胞治療だけをおこない、効果が出ている。
「副作用がないので、体調面で安心感があります。また、自分の細胞だから定着しやすいのか、薬の治療のように効果が切れもせず、持続性を実感しています。自分の髪自体が若返った満足感もあります」
気になる費用は税別で、1回めの治療が60万円、2回めから4回めは各30万円だ。
アベノミクスの改革により、日本の幹細胞治療は、効率的に利益を出すために培養と治療を別の事業者がおこなえる仕組みになった。そんななか、アヴェニューセルクリニックは、国内最大規模の培養施設を院内に設け、厚労省に唯一認められた毛髪の再生医療を提供する。
60万円は非常に高額であるが、継続必須で副作用も懸念される薬の治療と比べれば、長い目で見て、低コストとも考えられる。まずは身近な薄毛問題から、先端医療にふれてみては。
(週刊FLASH 2018年9月25日号)