ライフ・マネー
木工体験で気分が高揚した吉田戦車、衝動買いした万力は休眠中
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.12.05 11:00 最終更新日:2018.12.05 11:00
9月、神奈川県相模原市藤野に、子供の友達2家族と遊びに行った。温泉に入ったりして1泊し(親たちは当然大宴会だ)、翌日「藤野芸術の家」という、陶芸や木工体験ができるところに立ち寄った。
子供たちを遊ばせようということだが、ただ待っていてもヒマなので「木切れ、端材を使って何か1作品作っていいよ」という体験にお金を払ってみた。1000円。
子供たちは、木製小物入れやドールハウスのキットに色を塗って仕上げる体験をしている。私は様々な形の端材や枝で、なんとなく小さい「あずまや」的なものを作り始めた。
材料をノコギリや電動糸ノコでカットし、紙ヤスリをかけ、木工ボンドで組み立てていくのだが、予想以上におもしろく、夢中になってしまった。
何か脳内の「別の扉」を開かれたような気がした。
帰宅後1、2日は、その時出た脳内物質による高揚がまだ続いていたようだ。家でもやろう、と思った。材料は、はじめは割り箸ぐらいでいい。ノコギリで切って、何かを組み立てるのだ。
そうだ、ウルトラマンのフィギュアが寝っ転がれる、ひなびた「庵」を作ろう。
これはもしかして、後半生を捧げる一生モノの趣味に出会ってしまったのではないか、などと、持ち帰った、なかなかいい出来と思えるあずまやを愛でながら考えた。
まず100均で小型のノコギリ、木工ボンド、割り箸を買った。あと、とりあえず何が必要だろうか。そうだ、木材を固定する万力が便利だったな、買おう。
近くのホームセンターに、私がイメージする漠然とした「万力」はなく、ネットに頼ることにした。「ガッシリして重量もあり、この値段ならお買い得」というレビューが高評価なものを、それほど迷わずに注文。1000円。
脳内物質恐るべし。平常時のそれなりの慎重さがふっとんでいる。そして……
モノが届いた時、すでに脳内物質の効果は消えており、1.5キロほどある箱を手に、しばらく無言。木工欲が、うそのようになくなっていた。
そもそも、万力を固定する台として、物置に入れっぱなしの小型ちゃぶ台を使うつもりだったのだが、DIYの作業台として、ちゃぶ台はなんだかちがう気がする。
思えばあの高揚は、それなりに疲弊して様々なバグが出ていた脳が、「箱庭療法」的なことをすることによって癒された、スッキリ感だったのではないか。
今の私の脳は、クリーンアップが終了し、とりあえず癒しを必要としてはいないのだ。以来ずっと、万力は箱に入ったまま、ノコギリもパッケージの中だ。
木材として買った割りばしは、子供のおやつの冷凍バナナ用に活用されている。万力の箱は、ネコがふすまを勝手に開けないよう、重しとして置いたりしている。
いつか、なんらかの形で何かをがっちり固定するその力を発揮させてやりたいが、何かとはなんだろうか。
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん。近刊に『忍風! 肉とめし 1』『来れば? ねこ占い屋』(ともに小学館)。本連載の単行本が好評発売中!