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創業479年の酒蔵を支える女性杜氏、思いは「和醸良酒」

ライフ・マネー 投稿日:2019.02.17 20:00FLASH編集部

創業479年の酒蔵を支える女性杜氏、思いは「和醸良酒」

普通酒で大規模化を図った父を諫め、窮地を救った

 

 代々、女性が支えてきた信州最古の蔵は、武田信玄と上杉謙信が激突した川中島合戦場の近くにある。その歴史ある蔵を千野麻里子氏が初の女性杜氏となり、さらに花開かせた。

 

「米本来のまろやかな旨みをしっかり感じながら、フルーティーだったり、濃潤だったりといった香りを銘柄ごとに引き出しています」

 

 

 麻里子氏が醸す「川中島 幻舞」は、現在入手困難なほど評価が高い。

 

 幼少のころ「歌が聞こえて来るなど、酒造りはとても楽しそうで」と、この世界に魅了された彼女は、東京農業大学醸造科を卒業後、祖父や父の反対を押し切り、男の世界だった蔵人へ。

 

 最初の数カ月は分析の仕事が主だったが、ある日、麹米を手で返す「切り返し」の作業に飛び込んだ。

 

もろみを攪拌する「櫂入れ」。もろみの香りが漂う

 

「杜氏もそのまま受け入れてくれ、蔵人の輪のなかに加われました」

 

 蔵人となって8年め、新潟から通ってきていた杜氏が高齢となり、杜氏として酒造りの先頭に立ち、華やかでエレガントな「川中島 幻舞」をプロデュースした。

 

 毎年、米も気温も違う酒造りは、「同じ味を保つために、違うことをする」世界。

 

「米を触った感覚、味覚、嗅覚、さらには、もろみが発酵したプチプチしゅわしゅわという聴覚も総動員し、五感で造るのが日本酒です」

 

 今でこそデータはあるものの、最終的な造りの感覚は口伝で伝わる。

 

 蔵人は会話をすることなく、チームワークで流れどおりに毎日酒造りをおこなう。よい酒を、という意識を持った職人同士が阿吽の呼吸で仕事する信頼感。それがあってこそ生まれる美味い酒。家訓が「和醸良酒」という理由はそこにある。

 

「小さい蔵ですが、皆の力が合わさって、よいお酒が造れているという思いはありますね」

 

 ふくよかな香りとキレある味わいの酒は、麻里子杜氏が醸し出す「和」が生みだしている。

 

丁寧に米を広げ、返す。手の感覚も酒造りには重要

 

 今、力を入れているのは、「母中島 幻舞」をはじめとする純米酒や吟醸酒の生産をより増やし、需要に応えること。そして、地元長野の生産者と契約栽培を結んで、酒造りに必要な「人」と「農家」の和を広げることだ。

 

「休耕田を利用して、美山錦や金紋錦といった地元長野の酒米を育てていただき、買い取っています。ゆくゆくは、長野の県産米だけで造りをおこないたいですね」

 

 よい酒をしっかり造り、行き届かせる。蔵としておこなうべき根本を見据えながら、麻里子杜氏は今日も五感をフル動員して、酒造りと向き合っている。

 

<蔵元名>
酒千蔵野(長野県) 
創業479年(1540年)

 

<銘柄>
川中島 幻舞(かわなかじま げんぶ)
桂正宗(かつらまさむね)

 

長野県長野市川中島町今井368-1
http://www.shusen.jp/

 

<社訓>
和醸良酒

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