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炊事・掃除の師は禅寺本「吉田戦車」気分だけはお坊さん
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.04.24 11:00 最終更新日:2019.04.24 11:00
きらいではない炊事とはいえ、毎日朝晩やっていると、軽いストレスはたまる。そこで、なんというか初心に返る必要があるな、と思い、精進料理の本を再読したり、新たに買って読んだりしている。
昔から、もう亡くなられたが藤井宗哲氏の著作(『鎌倉不識庵 精進料理十二ヵ月』など)が好きで読んできて、一食まるまる精進料理みたいなことはしないけど、昆布と干し椎茸でだしをとるけんちん汁など、自分のレパートリーにしたものもある。
だが、精進料理本の効用は、レシピの部分にはない。典座(炊事当番のお坊さん)の心構えを、なんとなく参考にできる、というところにある。つまり、炊事をすることが、座禅などと同じく自分の修行であると思ってみたり。
妻子は雲水(修行僧)であり、その雲水たちの、マンガを描いたり算数の勉強をしたりする修行をささえるのが、典座である私の修行ということである。
重い腰をよっこらしょと上げる時、こういう自己暗示は役立つ。このようにエア修行僧? の気持ちになることで、めんどくさくなりがちな炊事を、けっこうフレッシュな気持ちでこなすことができるようになってきた。
そんなつもりで炊事をしてみると、床の掃除もちゃんとしなきゃな、と思い始めて、モチベーションを高めるために、禅寺の「掃除本」も何冊か購入。
みなさん疲れていて、なんらかの救いや、自分をアゲてくれるものを求めているのだろう。そんな本まで出ているのです。まあ、普通のことが書かれているのだが、その普通なことがなかなか難しいのが我々凡夫である、ということがよくわかった。
そして、そこからもレシピのようにとりいれた習慣がいくつかあり、その一つが、「床の上にできるだけ物を置かない」ということである。
私の仕事場も、気がつくと本や雑誌やフィギュアやアウトドアグッズで、足の踏み場もない状態になりがちだった。それを、気合いを入れてきれいにして、維持するように努めてみると、これがなかなかいい、という当たり前なことを知った。
私以上にダメ仕事場の妻など、たまに入ってきては「きれいだ……」とうっとりしている。自分のまわりをあっというまに汚部屋ならぬ「汚エリア」にすることが得意な娘にも、「ほら、ちょっとお父さんの部屋を見てきな。きれいだから!」などと言うくらいには、きれいな部屋になった。
精進料理、掃除本を合わせて「禅寺本」といっている。「禅の本」ではない。禅の精神や教義まで学びたい、というような向学心ではなく、禅寺で修行をするお坊さんの暮らしを知り、参考にしたい。そんな程度のことを思える本。
「ムダなものは持つな」ということが基本だったりもして、いつもの買いもの行為が叱られている気がすることもあるが、禅寺本、たまにはいいものです。
よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん。近刊に本連載の単行本『ごめん買っちゃった』(光文社)、『出かけ親 1』(小学館)が発売中!
(週刊FLASH 2019年4月23日号)