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食品リサイクル最前線…廃棄された恵方巻きは豚が食べる

ライフ・マネー 投稿日:2019.04.25 11:00FLASH編集部

食品リサイクル最前線…廃棄された恵方巻きは豚が食べる

 

 500リットルの赤い容器にぎっしり詰め込まれた「廃棄食品」が、工場には入りきらず、搬入口の外までいくつも並べられていた。細長く切られたキュウリ。きれいな長細い形の黄色い卵焼き。ソーセージのように見えた赤く長細いものは、マグロのたたきだった。ご飯とのりが混ざり合い、崩れた恵方巻きと思われるものもある。

 

 もったいない。頭に浮かんだのはそのシンプルなフレーズだった。

 

 2018年2月3日、節分の日。私は、神奈川県相模原市にある日本フードエコロジーセンターの工場を訪れた。首都圏の消費者向けの食品工場が立ち並ぶ一角にある工場までは、都心からは電車を乗り継いで1時間半ほど。

 

 

 2005年に立ち上げた会社が母体で、獣医師でもある高橋巧一社長が「食品ロスを減らしたい」という熱い思いで、食品リサイクルの環を広げてきた。

 

 この工場には、食品工場やスーパーなどから、売り物にはならなくなった食材が運び込まれる。午後3時を過ぎ、コンビニやスーパーではまだ、熱い「恵方巻き」商戦が続いていたが、すでに廃棄する品が持ち込まれ始めている、と聞いていた。

 

 現場に着くまでは、半信半疑だった。恵方巻きについてはすでに数年前から、コンビニのアルバイト店員たちが「ノルマが大変」と訴えたり、スーパーで大量に廃棄されている様子を写真で投稿したりして、注目を集めていた。

 

 当然、消費者の批判の矛先は運営側へと向かう。その声が届いていないはずはないし、多少なりとも気にするだろうから、同じような事態が起こらないように気をつけるのではないか、と思ったからだ。

 

 実際、前の年と比べると、「ノルマ」についての投稿は減っているように見えた。廃棄が出るのを望んでいるわけでは決してないのだが、無駄足になる可能性もあるのでは、と思っていた。

 

 だが、その「期待」は裏切られる。節分当日の夕方にもかかわらず、すでに恵方巻きの残骸や、その食材でいっぱいになった容器が並べられていたからだ。

 

 この日、高橋社長はあいにく出張中で、案内をしてくれたのは総務部課長の高原淳さんだ。「普段のご飯ものと比べると、2倍くらいの量ですね。毎年、この時期になると、恵方巻き関連の食材が増えます」という。

 

 捨てられた食べ物が集まる場所ということで、ある程度においがするのだろうと覚悟していた。だが、予想に反し、ひんやりとした工場の中は酢のようなにおいがほんのりと漂う程度で、腐臭は全くしない。

 

 それもそのはず、考えてみると、ここに持ち込まれるのは、腐った食べ物ではない。まだ食べられるのに、工場や店の側の事情で商品としては売れなくなった品だ。家庭で出る生ごみとは全く違い、新鮮さを保っているのだ。廃棄物といえば廃棄物だが、中には食材と呼んでいい品もたくさん交じっている。

 

 巨大な容器に入った恵方巻きの残骸は、フォークリフトで持ち上げられ、どどどど、と裁断機に流れ込む。容器に残った食材に水をかけ、全てを落とす。

 

 私は2階部分から見下ろす形でその様子を見ていたのだが、水圧は強く、かなりの重労働であることがうかがえる。裁断機のカッターに飲み込まれ、食材はあっという間に原型をとどめない状態になった。

 

 さらに、その「食材」──と呼んでいいかもはやわからなくなった物体が、ベルトコンベアで流れていく。プラスチックや割り箸、タバコなどの異物が混入していないかの選別は人力だ。

 

 この工場は365日稼働しており、こうして集められた食品廃棄物を、独自の技術で殺菌・発酵させ、「エコフィード」と呼ばれる豚の液体飼料として生まれ変わらせる。

 

 夏場でも10日から2週間は腐敗せず、乾燥させて固形飼料にするよりエネルギーと二酸化炭素排出量を大きく削減できるという。取引先は、食品メーカーやスーパーなどの180カ所以上。1日35トンが持ち込まれ、これが約42トンの飼料になる。廃棄物処理費用と、飼料の販売代金が、事業収入になっている。

 

 できあがった飼料を見せてもらった。茶色いどろどろの物体で、発酵しているため、ヨーグルトのような酸っぱいにおいが漂う。

 

 この飼料を食べた豚がブランド豚として、スーパーやデパートなどで売られているのだ。

 

 

 以上、仲村和代/藤田さつき著『大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実』(光文社新書)をもとに再構成しました。朝日新聞の人気企画「2030 SDGsで変える」企画からの書籍化です。

 

●『大量廃棄社会』詳細はこちら

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