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「オー人事、オー人事」CMで見る過去20年の労働環境の変化ライフ・マネー 2019.07.02

「オー人事、オー人事」CMで見る過去20年の労働環境の変化

 

 職場関連のCMの中で、多くの人の記憶に残っているのは、平成9年(1997年)のスタッフサービスによる「オー人事、オー人事」のCMでしょう。

 

 派遣会社であるスタッフサービスが発表したこのCMは、悲惨、ないしは、滑稽な職場が描かれます。そして、最後に、「職場に恵まれなかったら」というナレーションとともに、同社のフリーダイヤル番号が告知されます。

 

 

 たとえば、ゴルフ場。上司がショットした後、部下たちがグリーンを移動させて、ボールをカップインさせます。横暴な上司とその上司につき従う(従わざるを得ない)部下の関係が題材です。そこで、違和感を持ったひとりの部下が、駆け出します。

 

 すると、チャイコフスキーの弦楽セレナーデが流れるとともに、フリーダイヤルの番号が表示される。部下が携帯電話でスタッフサービスに登録したところで、CMは終わります。CMとしてはシンプルであり、目新しい要素はありません。新しいのは、派遣労働者という形態です。

 

 国立国会図書館(当時)の岡村美保子の解説によれば、労働者派遣とは、本来の雇用関係とは別に、他人の指揮命令を受ける労働をさせることです。昭和22年(1947年)に制定された職業安定法が禁止する「労働者供給事業」そのものです。つまり、リテラルに(文字通り)考えれば、違法だったのです。

 

 なぜ違法かと言えば、それは、戦前における人夫供給業、いわゆる、人入れ稼業と呼ばれる土建や荷役、運送、鉱山といった、肉体を酷使する作業において乱用されてきたからです。

 

 普通の労働者が嫌う作業を、搾取や強制を伴う形で、むりやりやらせていました。それが、人入れ稼業であり、「労働者供給事業」でした。だから、民主化を目指す日本国憲法のもとで定められた職業安定法は、これを禁止しています。

 

 とはいえ、もちろん、そうしたキレイゴトでは労働現場はまわりません。建設業や港湾運送作業では、「労働者供給事業」が盛んに行われていました。

 

 そこで、違法行為の黙認を続けるわけにはいかなくなった行政側が、数度にわたる実態調査の末、昭和60年(1985年)に合法化し、労働者派遣法を定めるにいたります。

 

 それだけではありません。

 

 バブル崩壊後、すなわち、「平成」に入って以降、「雇用流動化」が叫ばれます。日本的雇用習慣=終身雇用を守れなくなったため、平成7年(1995年)には、日経連が「新時代の『日本的経営』」を公表し、「雇用柔軟型」という名の下に、雇用の調整弁となる派遣労働者の拡大を、経営者側が求めたのです。

 

 その2年後の平成9年(1997年)に、スタッフサービスのCMは大量に放送されます。さらに2年後の、平成11年(1999年)には労働者派遣法が改正され、派遣適用業務が大幅に拡大されます。そのまた4年後、平成15年(2003年)の改正では、製造業にまで広げ、もはや、その範囲は、ほぼすべての労働現場へと及びます。

 

 平成9年(1997年)のスタッフサービスのCMは、こうした派遣労働拡大の始まりを告げています。その意味で、確かに時代をあらわしています。この後、日本は、ますます派遣労働者を増やし、それに伴って非正規労働者も増えていきます。派遣という立場は、あくまでも「雇用柔軟型」であり、雇用の調整弁にすぎません。

 

 そこから格差は拡大を続けます。

 

 平成29年(2017年)冬、スタッフサービスのCMが、20年ぶりに作られました。形の上での最大の違いは、まず、テレビからウェブへの移行です。

 

 平成29年(2017年)版は、まずYouTubeにアップされ、そこでの再生回数が400万回を超えたことを理由に、テレビでも放送されます。もちろん、あらかじめテレビ放送を予定していたものの、あえて好評を理由にした可能性はあるとはいえ、ウェブで先に公開した点は、その20年前とは異なります。

 

 また、CMの内容では、「フリーダイヤルに電話」から「022022で検索」への変更もまたあげられています。平成9年(1997年)から6年間放送されていた際は、CMの登場人物は、スタッフサービスに電話で問い合わせています。これに対して、今回は、スマホで検索しています。電話からスマホで検索へという流れは、20年間の変化を印象づけます。

 

 変化はもちろん、それだけではありません。


 平成29年(2017年)版では、スマホを軸にした「上司に恵まれなかったら、部下に恵まれなかったら」のバリエーションが豊富に出されています。

 

 たとえば、「SNS部下篇」では、部長の様子を逐一スマホで撮影し、SNSにアップロードする部下が描かれます。あるいは、「自撮り会議篇」でも、スマホで会議を実況する部下だけでなく、スマホを搭載したドローンで撮影する上司が登場します。

 

 そして、「スタンプ上司篇」でも、「会議の資料、明日までにできるよね」と命じる上司から、部下のスマホに「これパワハラじゃないよね?」とのスタンプが連打されます。パワハラへのコンプライアンス的な配慮があります。

 

 20年間の違いは、電話とスマホだけではありません。働き方です。スタッフサービス・ホールディングスの広報担当者は、次のように話しています。

 

「仕事や働き方の多様化により、過去のCMシリーズを放映していたときのような、いわゆる『普通の会社』の定義があいまいになっている現代ですが、そんな中でも可能な限り多くの人に、20年前と同様に『ありえない! とは言い切れないかも』と思ってもらえる映像を目指しました」

 

「働き方改革」の美名のもとで、上司も部下も、さらには、そうした上下関係には含まれない多様な雇われ方のわたしたちは、何にも恵まれていません。

 

「昭和」であれば、いつか給料は上がり、昇進し、さらには、そのサラリーによって、さまざまな夢を買えました。いや、正確には買えそうだと思うことができました。いつか、という、そんなに遠くはない未来へと希望をつないでいました。だから、理不尽な、「ありえない!」と思える職場にも耐えられたし、そもそも、そうは思いませんでした。

 

 翻って「平成」は、20年が過ぎてもなお、働く環境は変わりません。

 

 変わらないどころか、「格差社会」と呼ばれる風潮は強まり、厳しさを増しています。ですから、「ありえない! とは言い切れないかも」と自分を納得させ、他人にも納得してもらうほかありません。

 

「ありえない!」と叫んで職場を飛び出す選択肢は、残されていません。スタッフサービスのCMが、平成9年(1997年)ほどには話題にならない背景はそこにあります。わたしたち働く人たちには、もはやチョイスはないのです。

 

 

 以上、鈴木洋仁氏の新刊『「ことば」の平成論~天皇、広告、ITをめぐる私社会学』(光文社新書)を元に再構成しました。茫洋として語り得ない「平成」の形を、同時代に語られた「ことば」をもとに探っていきます。

 

●『「ことば」の平成論』詳細はこちら

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