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文系の営業マン、研究機器で起業「異業種連携が成功の鍵」

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.07.11 11:00 最終更新日:2019.07.11 11:00

文系の営業マン、研究機器で起業「異業種連携が成功の鍵」

 

「バイオメディカルサイエンス」という会社名に、馴染みを感じる人は少ないだろう。「ニッチ市場」とは、大企業が参加しない、規模の小さな市場のこと。大澤孝一さん(56)は、ニッチ市場で独立・起業して、業績を伸ばしてきた。

 

 大澤さんが扱うのは、バイオテクノロジー分野における研究用機器。細胞の破砕装置や分析機器、計測機器、実験器具など。ユーザーはおもに大学教授、医師、製薬会社、基礎研究に携わる研究者と限られている。

 

 

「文系出身ですが、学生時代に4年間アルバイトをしていた理化学機器の専門商社に、そのまま入社しました。営業担当として、ある大学の先生のところへ行き、『先生教えてください』とお願いして、実地で仕事を覚えていきました」

 

 会社員だった大澤さんにとって、大きな転機となったのは、1999年、36歳のときだ。大澤さんはそのころ、米国のスタンフォード大学へ赴いていた。細胞内のDNAを解析するための装置である、「DNAチップ作製装置」の新規開発を依頼するために、米国に派遣されたのだった。

 

「スタンフォード大学へ行って驚いたのは、日本と違い、チームで議論して、その場で物事が決まっていくことでした。

 

 研究者、技術者、法律家、コーディネーターなど、多くの分野の人が一堂に会して、請け負った依頼にどう対処するかを話し合っていきます。いまでは珍しくないベンチャー企業のスタイルを、いち早く実践していました」

 

 結局、米国の輸出規制もあり、開発した装置のすべてを日本に持ち帰れたわけではなかった。だが大澤さんは帰国後、持ち帰れた試作品をもとに、異業種の技術者と組んで、再度開発に取り組んだ。装置は完成し、起業のきっかけとなった。

 

 大澤さんが飛び込んだのは、最先端研究を担うが、新規の起業が難しいとされる小さな市場。しかし、このとき開発した装置は、創業時の主力製品のひとつになった。

 

「『異業種間の連携』を、わが社は基本方針として掲げています。これまで、異業種間でいろいろな製品を作ってきました。自分だけでは作れないものは、餅は餅屋で、その道のプロの人に依頼します。業者の間を繋ぎ、橋渡しをするのが私の仕事です。

 

 現在の主力製品は、研究用の『細胞破砕装置』で、これは生体組織や細胞などの対象物を、均一にすりつぶす装置です。そうして取り出したDNAという素材を、研究者がさまざまな実験に利用します。

 

 昔は、検体量や数に応じて、何種類もの機器が必要でした。それを1台の装置で対応できないかと考え、苦労して作ったのが、多検体細胞破砕装置『シェイクマスター』です」

 

 創業時は輸入品を改良して販売していたが、仕事でできた縁がきっかけで、自動車生産用のロボット・システム関係の会社と出会い、協力して国内生産に乗り出した。

 

「この装置が、大ヒット商品となりました。全国の試験研究機関や大学の研究室、製薬会社、食品会社、病院などに納入してきました。

 

 ナシやリンゴなどの果実、植物、魚介類を手作業ですりつぶしていた方々から、たいへん喜んでもらいました。研究目的だけではなく、海外から輸入される植物の検査にも、利用されています。

 

 この装置にはいくつかのラインナップがあり、平均価格は250万円ほど。1台納入すると、消耗品が継続的に売れるので、さらなる利益に結びついています」

 

 大澤さんは、茨城県水戸市で生まれた。祖父母の家が、水戸光圀(黄門様)が晩年暮らした西山荘のそばにあり、小さいころから光圀を敬愛している。江戸時代にこの地で形成された水戸学が、大澤さんの生き方や経営理念となっている。

 

「その基本は『敬天愛人』の思想。これは水戸学の基本的な考え方で、経営哲学としても大切なことが詰まっています。似た言葉に、『報恩感謝』という言葉があり、こちらのほうがわかりやすいと思い、社是にしました」

 

 水戸の人を指して、「水戸っぽ」と呼ぶことがある。大澤さんによれば、「怒りっぽくて理屈っぽいが、義理人情に厚い」という水戸の人の気質を表わしている言葉だという。

 

 人との縁を大切にして仕事をしてきた大澤さんは、まさに「水戸っぽ」だ。今日も小さな市場を歩き、次なるヒットの種を探している。


(週刊FLASH 2019年7月9日号)

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