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【食堂のおばちゃんの人生相談】37歳・団体職員のお悩み

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2019.09.02 11:00 最終更新日:2019.09.02 11:00

「食堂のおばちゃん」として働きながら執筆活動をし、小説『月下上海』で松本清張賞を受賞した作家・山口恵以子。テレビでも活躍する山口先生が、世の迷える男性たちのお悩みに答える!

 

【お悩み/隣の佐藤くん(37)団体職員】

 

 小1の娘は少食で好き嫌いが多く、給食が大の苦手で、いつも午後の授業ぎりぎりの時間まで残されて食べさせられる。アラサーの担任は頑固で「頑張って食べなさい」の一点張り。

 

 

 娘は「給食がいや。先生もいや。学校へ行きたくない」と言いだした。校長にも相談したが「クラス運営は担任にまかせている」と取り合わない。教育委員会に直訴して弁当でも持たせようかと思っている。私たちは、たんなるモンスターペアレントなのですか?

 


【山口先生のお答え】

 

 いいえ、決してモンスター・ペアレントではありません。あなた方は子供の心身を真剣に考えている、立派なご両親です。

 

 実は私もお宅のお子さんと同じでした。食いしん坊で好き嫌いはないのに、唯一、牛乳が飲めないんです。だから毎日、給食の時間が終わっても、掃除の時間も、6時間目の授業が終わってからも、終業のチャイムの鳴る午後4時まで、教室に残されました。

 

 最後は水飲み場に連れて行かれて、鼻をつまんで無理矢理飲まされました。その度に私は吐いてしまいました。これは拷問です。もしフキが嫌いというのなら、この拷問も一年に一回ですんだでしょうが、牛乳は毎日給食に出るので、毎日でした。

 

 もちろん、うちの母も小学校低学年の娘が毎日午後4時過ぎまで帰ってこないのは心配で、担任(やはりアラサーの女教師です)に話をしましたが、とにかく「給食は教育の一環」「特例は認められない」の一点張りで、頑として改善してくれませんでした。

 

 思い余って知り合いの医者に頼んでアレルギーの診断書を書いてもらいましたが、私は乳製品は大丈夫だし、牛乳もコーヒーやココアを混ぜれば飲めた(今もカフェオレは大好物)ので、単なる「ワガママ」と判断され、冬は日の暮れるまで残され続けました。

 

 こういうことが続くとどうなるか? クラス全員が私を「問題児」と見るようになり、最終的には「犯罪者」扱いされました。私は今もあの教師を許しません。あれは教育の名を借りたイジメでした。

 

 ところがアラサー教師が産休中、代理で担任をしてくれた初老の男性教師は「コーヒーを混ぜれば飲めるなら、混ぜて良いですよ」とあっさり認めてくれたのです。それからアラサーが戻ってくるまで、地獄だった学校生活は天国に変わりました。

 

 その後、再び地獄になったのですが、小学校6年の担任の中年男性教師は「飲めないなら無理して飲む必要はない」と、これも至極あっさり認めてくれて、最後の一年間を平穏に過ごせました。

 

 私が何を言いたいかというと、食べ物の好みとか食べられる量とか、完全に個人差に属することに対して「教育」の名の下に一律を強制するのは人権侵害に当たる、ということです。

 

 もし児童全員に「100メートルを15秒台で走れるまで、自宅に帰らせない」と強制したら、狂気の沙汰です。全員に同じ量を食べろ、嫌いな物でも全部食べろと強制するのも同じです。「無理強い」してるんですから。担任教師の判断一つで、学校は天国にもなれば地獄にもなります。

 

 給食という、本来は楽しかるべき場が子供にとって地獄になってしまうなんて、こんな不幸なことはありません。誰だって苦手な食べ物の一つや二つはあるでしょう。大食いの人もいれば少食の人もいるんです。それを認めることが教育じゃないんですか?

 

 ご両親は是非、戦って下さい。このままではお子さんは不登校になり、心に傷を負うでしょう。担任と校長にこのコラムを読ませて説得してみて下さい。それでダメなら、教育委員会に駆け込んで下さい。応援しています。

 


やまぐちえいこ
1958年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒。就職した宝飾会社が倒産し、派遣の仕事をしながら松竹シナリオ研究所基礎科修了。丸の内新聞事業協同組合(東京都千代田区)の社員食堂に12年間勤務し、2014年に退職。2013年6月に『月下上海』が松本清張賞を受賞。『食堂メッシタ』『食堂のおばちゃん』シリーズ、そして最新刊『夜の塩』(徳間書店)が発売中

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